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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
193/494

冒険者初心者とうさみ 55

「じゃあ採用で」

「決定なのです」

「うむ」

「ありがとうございますケラサス様!」


 なんだかんだあって試用期間が終わり、魔法使いペルシカの正式採用が決定した。


 また、赤焔獣の毛皮にいい値が付いたことで、ペルシカの祖父グレイプへの分け前の支払いを込みでも若干の余裕ができた。

 しばらく試用期間中に引きつづき全体の連携の構築をしながら慣らしていくことになる。



 それはそれとして宴会である。

 歓迎会と送別会を兼ねたものだ。

 といっても、グレイプは当面冒険者ギルドで働くことになったのでお別れという感じはしない。

 しないのだが……今日は珍しく早々に酔いつぶれてしまった。

 何か思うところがあったのかもしれない。

 弟子で上司だったかもしれない孫娘の婚約者ケラサスのこととか。

 その孫娘のペルシカのこととか。

 本人にしかわからないことだが。



 いつもよりちょっといいごはんを食べながら、いろいろな話をする。

 その中で面接の日の話が出た。


「そういえば。あの日うさみさん見て固まってたのって何だったの」


 と、アップルが尋ねたのだ。


 面接の日、つまりであった翌日であるが、アップルとナノはうさみさんと一緒に朝食をとっていた。

 ナノが弟子で朝を使って神官の知識を教えている流れで朝は一緒のことが多いのだ。

 そのとき、ペルシカがやってきた。

 乗り込んできたという表現がふさわしい勢いだったのが、うさみを見たところで様子がおかしくなり動かなくなったのだ。汗をだらだら流して。

 まるで蛇に睨まれた蛙というやつだった。


「え、っと」


 ペルシカはチラリとうさみさんのいる方へと視線を送る。

 アップルがつられてそちらを見ると、うさみさんが手を振っていたので振り返した。

 向き直るとペルシカが顔を引きつらせていたが、すぐに咳払いして真面目な表情になる。

 普段はケラサスがかかわっていなければ自信ありげに微笑んでいることが多いペルシカがである。


「むしろわたくしが聞きたいのですが、あの方はいったい何者ですの?」


 囁くように尋ね返すペルシカ。

 何かを恐れているような。いや、この場合何かではなく誰かというかうさみさんをだろうが。

 アップルの認識では見た目は子ども、財布と神官の腕は大人なエルフのギルド関係者である。ナノなら加えてお師匠様と答えるだろう。


「ギルドの治療師の神官様だよ」

「お師匠様なのです」

「よく見ろ、金の聖印を。司祭以上の資格を持っていらっしゃる方だ」


 アップルをはじめとする三人がそれぞれ答える。

 それを聞いたペルシカは形容しがたい顔をした。困ったような、引きつったような。怯えとみてもいいかもしれない。それを我慢しているような。


「魔法使いの視点からしてみると、あの方は極めて特異な存在ですわ」

「とくい?」

「ええ。ケラサス様、二人も、魔法を扱える以上、魔力を知覚できますわよね?」


 魔力の近くは基本の一つだ。自身の魔力を認識できなければ魔法は使えない。


「自分のなら」


 アップルが答えて他二人が頷く。


「魔法を学ぶ際には周囲や他者の魔力を知覚する訓練もするのです。わたくしは視覚に投影して認識できる訓練を受けているのですわ。これによって魔法の行使に気づいたり魔法使いの腕を読み取ったりできますの」

「あの時あたしたちの魔法の腕を見てたのね」

「ええ、そうです。ケラサス様に二人とも魔法を使うと伺っておりましたので。そして有力な魔法使いは身体から湧き上がるように魔力を放っているのです。この放出される魔力を見れば大まかな実力が読み取れるというわけですわ」


 あの時何と言っていたか。大したことないみたいな言い方をされたような?


「お二人は素人としてはできる方でしたわ」

「ふーん」

「そっかーなのです」


 正規に学んでいない者としては、という意味だろうと受け取った。


「ですが、あの方は……」

「かたは?」

「闇……ではない……深淵……いいえ虚無……」


 言いながらペルシカが遠い目をして。


「…………」


 黙り込んだ。


「ペルシカ?」

「はっ!?」


 隣のケラサスが肩をたたくと、元に戻る。


「大丈夫?」

「なのです?」

「ええ、いえ。大丈夫です。あの方は、魔力を発していませんでしたわ。なにもなかった。まるで吸い込まれるような……」


 アップルはうさみさんを見た。

 美味しそうに骨付き肉をかじっている。いいなあ美味しそう。


「気のせいじゃ?」

「あんなものを見間違えることはあり得ませんわ。神官、それも高位の方なら本人だけでなく聖印からも魔力を感じ取れるはずですのに、それすら感じさせないなんてこと。通常ではありえません」


 それで何者か、と問うたわけか。

 なんだかすごく恐れている。

 ご飯おごってくれるいい人なのに。見た目可愛い子どもだし。結構優しいし。髪の毛さらさらでうらやましいし。


 アップルはもう一度うさみさんを見た。

 両手で木の器をもって喉を鳴らして何かを飲んでいる。いつもと同じなら果実のしぼり汁だろう。


「気のせいじゃ?」


 もう一度同じことを言った。

 アップルにはなんかそんな怖い感じの人とは思えない。エルフだけど。

 ナノも頷いている。


「お師匠様は抱っこすると柔らかくて抱き心地がいいなのです。魔力吸い取ってるとかそんな感じはしないなのです」

「抱っこは関係ないでしょっていうかあんたうさみさん抱っこするの? いいなあ」

「我にもよくわからんが……」

「そんなはず……え?」


 ペルシカが驚いたような声をあげるのでそちらを見ると、うさみさんを二度見三度見していた。さらに目をこすってもう一回。


「お、おかしいですわね……?」

「どうした?」


 動揺するペルシカにケラサスが声をかけると。


「いえ、その、そんなはずは……? その、わたくしの勘違い? だった? ようですわ?」


 どう見ても混乱している。

 なんだかかわいそうになってきたアップルは、席を立った。


「直接聞いて来ればいいじゃない」


 と言ってうさみさんのもとへと歩き出した。


 そして――。

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