冒険者初心者とうさみ 51
「はい、それでは“花と実”採用面接を始めます。私は面接官のナノ・フラワー。こちらはパーティリーダーのアップル。よろしくお願いしますなのです」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますわ」
「ナノって家名持ちだったの?」
「孤児院の名前なのです」
「なるほどー」
採用面接とは、神書にも載っている由緒ある儀式である。
冒険者など下層の組織や集団ではあまり見られないが、上層では当たり前に行われている。
この儀式を通じて相手の人となりをつかみ、集団・組織への加入の是非を決める。
今回はペルシカが上流階級出身のようなのでそちらに合わせた形である。
早速アップルが話の腰を折ったがこのくらいは問題ではない。
「こちら履歴書を拝見しましたが……一部読めませんでしたなのです。口頭で改めて確認していきたいと思いますなのです。まずは自己紹介からどうぞ」
「ペルシカ。ただのペルシカですわ。ケラサス様の許嫁にしてグレイプおじいちゃ……お爺様の外孫にあたります」
正式には立ったり座ったりするのだが、今回は略式ということで席に着いたままのやり取りである。
「結構。冒険者パーティ“花と実”への加入を希望する、なのです?」
「はい。ケラサス様が所属する“花と実”への加入を希望いたします」
「なるほど、ケラサス様。では志望動機は? なのです」
「はい。ケラサス様が所属しているということが一つ」
「それだけじゃないんだ」
「前途有望な若手冒険者パーティであると、信頼できる情報筋から耳にいたしました。わたくしも今後は自活しなければならぬ身。有力な方にわたくしの能力を合わせれば、今以上に活躍できることでしょう」
なるほど、自意識は高く、実力にも自信があるらしい。
問題は二つ。これが過剰なものか否か。そしてケラサスに対する執着の強さ。
それを確認していかねばならない。
「はい。それではペルシカさん。あなたは我々にどういった利益をもたらすことが出来ますか?」
「はい。まずわたくしは魔法使いです。魔法学院次席の実力を持っています。冒険者には戦術級魔法を扱える魔法使いは少ないでしょう。大いに役に立てると自負しております」
「戦術級?」
「戦闘用の魔法のことだ。主に攻撃と防御の魔法だな」
アップルが首を傾げると、ケラサスが答える。
より正確に言うなら、魔物との、戦闘に有効な威力と規模を持つものを指すそうだ。
つまり魔法で魔物と戦えますと。
「魔法学院次席……えーと、ここに魔法学院……これなんて読むなのです?」
「中退だ」
「中退とありますが」
「ケラサス様を追うのに邪魔でしたので」
胸を張っていたペルシカが、さらに胸をそらしながら。彼女にとって重要でで誇るべきところらしい。
「直前の席次が次席でしたの。卒業していれば次席か、あるいは筆頭に届いたかといったところですわ」
「次席ってどのくらいすごいなのです?」
「百人ほどいる同期の中の二番目だ」
「おー、すごい」
でも具体的なことはわからないのだけれどもなのです。
と、ナノが思っていると。
「中型魔物を一撃で屠る程度の火力と、それを運用するに十分な防御力がありますわ」
補足してくれた。
中型の魔物というのは、大雑把なくくりだが人間と同程度の大きさの魔物のことだ。
全長で半分から二倍程度まで。これより大きかったり、小さかったりすると戦い方が変わってくる、らしい。
魔物の強さは多くの場合大きさに比例する。もちろん例外も多いし、同じ魔物でも強さが違ったりするしそれだけを根拠にするのは危険だが、一つの指標ではある。
そしてその中型魔物を一撃で屠るというのは。
「あー。アップルと同じくらいなのです?」
「性質が違うから単純な比較はできぬがな」
「んなっ!?」
面接が始まってからずっと胸を張って自信ありげに笑みを浮かべていたペルシカの表情が、初めて崩れた。