冒険者初心者とうさみ 49
「昨日はどうもお騒がせしましたわ」
「あっはい」
「なのです」
アップルとナノはうさみさんと朝食をとっていた。
今日は仕事の争奪戦に参加する必要がないため時間に余裕がある。他の冒険者やギルドの職員が準備を進めているのを横目にいただくごはんは大変おいしい。
しかし、そんな優雅なひと時は一人の乱入者によって破られた。
ペルシカである。
喧騒に紛れていつのまにやら現れて。
姿に気づいて驚くアップルとナノを見、ついでにうさみさんを見て小首をかしげて、昨日の謝儀から入ったのだった。
二人は反射的に反応を返した後、改めて動き出したのはアップルが先。
「昨日と格好が違うから誰かと思った」
昨日は髪をまとめ男装をしていたペルシカだが、今日は黒のローブにつばの広いとんがり帽子。手にするはねじくれた杖。
伝統的魔法使いの装いだ。
「昨日は旅装でしたもので」
帽子を取りながら話すペルシカ。
見たところ、アップルやナノより少し年上のように見える。
胸のせいだけじゃなく。
相手のケラサスは年下であるのだが。
女房は年上の方がいいというやつか。
まあそんなことはいいのだが。
「おひとり様なのです?」
気になるのはそこである。
ケラサスとグレイプ爺が早々に連れ出したものの、昨日は一瞬とはいえアップルとナノに対し好意的とは表現しにくい視線を向けてきていたペルシカである。
それが一人でやってきたのだ。
「はい。お二人にお話を伺いたいと思いまして。ええ。ケラサス様のお話だけでは公正ではないと、そう思いますので」
「はあ」
「なのです?」
ペルシカは舐めるようにアップルを、ナノを見る。
「ふむこの程度。そう、こちらは神官様ですの。なるほ……!?」
一人二人と目を移していった先、三人目の人物のところで止まる。
「…………………………ゴクリ」
動かないペルシカ。
あんまり動かないので固まったのかと思ったが、喉を鳴らしたのでそういうわけではないようだ。
うさみさんをじっと見たまま。一筋の汗がこめかみあたりから頬を流れ落ちる。
見ていると流れる汗の量が増えていく。
大丈夫かしら。
アップルはそう思いながらペルシカの視線の先を見た。
見ている相手はなんか同卓していた子どもことうさみさんだ。
最初ペルシカをちらっと見てから自身の食事に集中していた。ややこしいことに関わるまいという強い意志を感じる。今もじっと見つめられているのにまるで意に介していない……という風を装って自分は無関係だと主張しようとしている。
あ、失敗してる。冷や汗かいてる。
「何の勝負してるのよ」
「お?」
「はっ!?」
謎の緊迫感を出しながら動けなくなっていた二人に、状況に置いて行かれていたアップルが声をかけると、うさみさんは今気づいたかのように聞き返し、ペルシカはぐらりとふらつき、手にしていた杖と帽子を手落とした。
「だ、大丈夫なのです?」
近くにいたナノが立ち上がって支える。
「え、どういうあれなの? 知り合いとか?」
「それはないけど、わたし関係ないから関係ないよって感じを出そうと思って。なんか邪魔みたいだから席移りますね」
「ええ、お師匠様?」
自分の皿とお金を入れる箱をもって空いた席に移動していった。
結果残されたアップルと、ペルシカとペルシカを支えるナノ。
なんだかよくわからない状況になってしまった。
さらに。
「ああっ! ここにいたぞ!」
最近よく似た展開があった気がするアップルだった。




