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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
185/494

冒険者初心者とうさみ 47

 冒険者ギルドの酒場で、“花と実”の四人が難しい顔で顔を合わせていた。


「引退かー」

「本人がそう言うのではな」


 グレイプ冒険者やめるってよ。

 という話は、仕方がないかという空気の中受け入れられた。


 現状“花と実”が適正と考えて受注している仕事は数日単位のものが多い。


「出先でまた腰やっちゃったら大変だものね」


 ナノが治せればいいが、ナノの神聖魔法はまだその域に達していない。

 戦闘で無理がきかなくなるのもさることながら、移動時間が伸びてしまうのも問題になる。

 今回の経験からして、おおむね二倍の時間が必要になるだろう。その間グレイプはずっと痛いのを我慢することになる。

 仕事にかかる日数が安定しなくなるだけでも問題だ。期間が決まっている仕事もあるからだ。

 また、かかる日数が増えれば一日当たりの報酬が減る。

 通常三日かかる仕事が四日に、七日かかる仕事が十日になっても報酬は減ることはあっても増えはしない。

 危険に関しては実力で解決できてもお金は実力では解決できないのだ。

 解決できる見込みがない以上、そして毎回治療費がかかることまで考えると、グレイプとともに冒険者活動を続けるのが困難であることは明白だ。



「でも、グレイプお爺、冒険者やめてどうやって食べていくなのです?」


 “花と実”を抜けるとなればパーティ予算を頭割り、四分の一を出すことになってはいるが、現状そこまで稼げているわけではなく、順次装備を購入、更新しているところなのでさほど貯められていない。

 金銭神の神聖魔法を使うため、そして何かあったとき一か月暮らせる程度の予算を目標にためている分しかない。

 つまりひと月分の生活費。

 あくまで目標なので実際にはもうちょっと少ないかも。

 今回赤焔獣の情報と、素材として利用できる分を換金したものを加えると二ヶ月分くらい増える見込みだ。

 珍しい魔物なので高値が付きそうという言葉を信じるならだが。


 それでも合計三か月分にしかならない。

 腰に不安がある老人を雇ってくれるところは少ないだろう。

 今後の生活にめどが立たないのであれば……まあ、ナノたちにできることはそうないのだが。


「冒険者ギルドの嘱託職員はどうかという話があっての」

「戦技教官か?」


 ケラサスが尋ねると頷くグレイプ。


「専従の教官がいると助かるという話での。まあそうでなくとも、家に戻れば死に際くらいは看取ってもらえるとは思うが」

「ふーん」


 やっぱりちゃんとした家の出だったんだなとアップルは思ったが口に出さなかった。

 初めから持ちこんでいた装備からして冒険者のそれではない。剣、鎧、盾、いずれも金属がふんだんに使われた高そうなもので、それぞれ何かを削り取ったような跡があった。家紋か何かじゃないかと想像している。


 帰る家があるなら帰った方がいいのではないかと思うが、ケラサスの面倒を見るためについてきたのだということくらいは察している。

 しかし、個人の事情に踏み込まないのはマナーだと、見習いの間に教わっていた。



「それなら、同僚にうさみさんもいるし安心して働けるんじゃないの。どっちかというとあたしたちの方が問題よね」

「まず試験受けなおさなきゃなのです」


 “花と実”パーティはアップル、ナノ、グレイプの三人パーティで試験に合格し、ケラサスを追加加入させたパーティだ。

 正規冒険者として登録を維持するためには改めて試験を受けなおす必要がある。

 と言っても、活動の実績があるパーティへの試験は、外部からやってきて冒険者に対する者と同じ簡易試験ですむので、一日もかからない。


 むしろそれ以前。


「ケラサスとパーティを続けるかどうかっていう話が先よ」

「そうなるか」


 もともとケラサスはグレイプを勧誘した際のおまけである。グレイプが加入する条件として、ケラサスを一緒に加入することを求められた。

 であれば、グレイプがいなくなるのなら、ケラサスのことも再考するのが当然だ。


「では確認するが、我では力不足か?」

「それはないよね」

「なのです」


 アップル、ナノよりも年下だが、戦力的には同じくらい。火と光の魔法で野営の際に便利。アップルの鈍器、ナノの長物に対し、剣を使うのでバランスも悪くない。

 冒険者ギルドの試験に必要な知識や技術も、冬から春にかけて行動を共にする間に共有してきたので再試験は問題なく受かるだろう。

 本人のやる気に関しても良好。リーダーの決定には従う。

 ケチをつけるべきところは、まあ少ない。


「女二人に男の子一人ってのがちょっと組み合わせとして難しいところはあるけれど」


 性別の問題は先輩たちの話であることないこと吹き込まれているので懸念ではある。

 今までは半分保護者のグレイプがいたが、いなくなるとなると。


「ただまあ、即座に解散するほどでもないかな」

「なのです」


 これまで行動を共にしたことで“そういう”人間ではないと思う程度の信頼関係は築けている。


「どちらかといえば人数かな。一泊の仕事なら二人でもいい。それより多いなら四人ほしい。もう一人増やせればいいんだけど、適当な人が思いつかないのよね」


 人数が減り、戦力が減ったことで、ちょうどいい仕事の難易度と報酬の関係が変わってしまう。

 安全のため余裕を見て選んでいた基準はグレイプ込みの四人でのものだ。

 報酬は実質四人で分けていた。

 一人頭同程度の報酬を得ようとするなら一泊の仕事なら二人で。これは実力的には問題ないとアップルは考えている。

 が、今のアップルたちの能力で三人だとちょうどいい仕事がない。同等の実力者がもう一人いれば、グレイプがいたときと同程度の仕事を受けるのも許容範囲だ。

 慎重派のナノはまた違う見当を付けているかもしれないが。


「とはいえ現状でケラサスを放り出すのもどうかと思うなのです。現金的事情も含めてなのです」

「現金的事情?」


 ナノが言うには。

 ケラサス加入に際し提供された金貨十枚。

 契約では一年間パーティを組む条件の一部である。

 これを、アップル、ナノの都合で破棄するのであればこの金貨の一部を還元しなくてはならないだろう。

 ということらしい。


「四か月は組んだので残る八か月分、パーティへの投資なので頭割りして……ええと割り切れないなのです。金貨三、四枚は戻さないとなのです。もちろん、パーティ予算の払い戻しとは別になのです」

「ナノは金銭神の神官のようなことを言うのだな」

「金銭神の神官なのです」

「であれば、あれは投資ではなく保証金なので満額返却が妥当だ、と主張してみるが」「ぐぬ……なのです。いえ、ですが――」


 ナノとケラサスがお金の話を始めたが、どちらにしても払う余裕はあるまい。二人も本気で言っているわけではないはずだ。ないよね? あるって言われたらトゲ付き鉄球を……。

 とりあえずケラサスの残留は決定かな。収入については何か手を打つ必要はあるけれど、一時的に収入が減ることよりも使える人間の頭数が減るほうが実際のところ、痛いだろう。

 グレイプがこのギルドに残るのであれば何かあったらいいつければいいし。


「少なくとも当初の約束通り一年は組みつつ、追加の人材を探す。以降のことは、一年経った時にってことで」

「異議なし」

「なのです」


 思考からそのままの流れでアップルが告げると、二人は言い合いをやめて同意した。

 まあ既定路線である。確認にすぎない。ある程度以上信用できる実力が近い仲間、というのは貴重なのだから。


「話はついたようですな。いや、ワシのせいで申し訳ないの」


 若い三人の言動を見て胸をなでおろした様子のグレイプに対し、アップルが口を開こうとした時だ。



「ああっ! ついに見つけましたわ!」


 冒険者ギルドの入り口から、若い女性の声が響いたのは。

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