冒険者初心者とうさみ 46
「引退を勧めるけど」
「ううむ、そうですか。せめて一年はと思っておったのですが」
場所は変わって処置室。
グレイプと、うさみが向かい合っていた。
「わたしも腰痛の専門じゃないからあんまり正確なことは言えないけどね。年配の人で腰痛になったら、魔法で治しても必ず再発するんだよ。それで偉い人に文句言われたこともあってさ」
「それはまた大変でしたな」
グレイプは苦笑いを浮かべる。
うさみは笑いながら言うが、結構な面倒ごとだろう。
「まー、腰痛におびえながら冒険者活動とかできないでしょ」
「そうですな。戦闘中にでも痛くなれば、若い者を巻き添えにしてしまいそうで」
グレイプは一通りの武器を扱えるが、現在のパーティでは盾と片手剣を使っている。
パーティ唯一の盾持ちであり、ガツンと受けることもある。
そんな時、衝撃で腰に来たら。
動けなくなり守る側が守られることになるだろう。それも突然だ。
戦力外になるどころか足を引っ張ることになってしまう。
では武装を変えればどうか。
否。どの武器を使うにしても腰は重要な場所である。
仮に中~長距離武器で支援するとしても、戦闘中追撃が入るべき機に腰痛で動けなくなり打撃できなかったとなると連携が崩れる。
戦いは命懸けである。
予想外のことは起きるものだ。だからこそ、予想される危険は可能な限り排除するべき。
そうでなければ安全マージンを広くとらなければならない。
グレイプとしては、慎重さは大事だが、その上で、より強い相手と戦ってこそ成長があると考えている。
若い者は成長してこそだ。
旧知のケラサスにしても、女子二人にしても、まだまだ高みを目指せるだろう。
ケラサスはグレイプの技をたたき込んである。弟子と言ってもいい。根はまじめだから将来はグレイプを越えてくれることだろう。
アップルのとっさの踏み込みと迎撃の鋭さは目を見張る。あれは天然の物だろう。磨けば磨いただけ光る。
ナノの堅実かつ周囲に気を配った立ち回りも徐々に洗練してきている。聞けば不運な目に遭い、そして生きのこったのだという。代え難い経験だ。
三者とも魔法を使えることもいい。
あまりあれこれ手を広げると中途半端になる懸念はあるが、魔法と武器を組み合わせて戦い方を模索している。自分で考えられる子は伸びる。
有望な若者の成長を阻害するのは本意ではない。
だが今のグレイプを連れて十分な手ごたえがある敵と戦うのは厳しいだろう。
グレイプも戦いの中で果てるなら本望だが、それは自分自身のことに限る。
だからと言って、戦闘中に腰痛が発症したらほっといて離脱してくれというのも難しい。
ケラサスはともかく、女子二人は見捨てて行けと言ってもためらうだろう。
それに、戦闘中でなくても今回のように純粋に荷物になる。下手に動かすと痛がるので荷物以下かもしれない。
獲物も持って帰ると三人が言い張ったのもあるが、帰路に二倍以上時間がかかった。
あるいはナノが即座に治せるまで神聖魔法を成長させれば、多少話は違ってくるが、現実的に無理があると、うさみは言う。五、六年は見てほしいかなと。
やはり、グレイプは身を引くべきだろう。
それはそれで問題はあるのだが。
「しかし三人ではいささか不安がありましてな」
「気持ちはわかるけどね」
なんだかんだまだ若者よりもグレイプの方が戦闘能力は高いし、三人とも磨かれている最中の原石であり、グレイプの目から見れば拙いところも多い。過保護かもしれないがまだ面倒を見ていたいとどうしても思うのだ。
それに野営の夜番の負担然り、持ち運べる量然り、人数が減るというだけでもいろいろと前提は変わってくる。
「可愛い子には旅をさせよって言うよ」
「初耳ですな、それは……ですが言いたいことはわかります」
保護者のいないところでこそ得るものもある。
グレイプの息子も今頃うるさい爺がいなくなって、また周囲を抑えていた重しがいなくなって、新たな経験を得ていることだろう。
それと同じことだ。
「まあ、あくまでわたしの意見だから。それとね――」
お爺ちゃんと孫にも見えるが実際の年齢比は逆転する二人の話はもう少し続いた。