冒険者初心者とうさみ 45
「他のみんなは?」
息を切らせて冒険者ギルドに入ってきたのはナノひとり。
いつもならアップルがナノの前か後に、続いて若い子とお爺ちゃんが入ってくるのだけれども。
うさみは何かあったのだと理解し、ナノに尋ねた。
「それなのです、お師匠様、手を貸してほしいなのです。グレイプ爺が」
「お爺ちゃんが?」
まさか心臓発作でも起こしたのか。あるいは脳卒中。いい歳だ。ありえないことではない。
うさみは何事もないといった顔で、ナノの背中をポンポンとやさしく叩きながら先を促した。
「腰をやっちゃったなのです。門の中までは連れ帰ったのですがなのです」
「腰かー」
□■ □■ □■
うさみが救援に行って、五人と担架が帰ってきた。
「いやあ、助かり申した。よい腕ですの」
「残念ながらあんまり助かってないよ」
「というと?」
「年齢による体の劣化が原因だから、いっぺんなった以上、再発するよ」
「ぬう」
グレイプとうさみが先頭で残り三人が担架を持って冒険者ギルドに入ってくる。
「お帰りなさ……なんですかこれ」
担架に乗せられて入ってきたものを見て、マっちゃんが首を傾げる。
上にマントが駆けられているのでわかりにくいが、毛皮がのぞいている。燃えるような赤。
形状からして人、獣人族というわけでもなさそうだ。
「知らない魔物だったんで、確認してもらおうかと思って」
「交代で担いで持って帰っていたんだが、その途中で爺……グレイプが腰をな」
「仕方がないので両方担いで帰ってきたなのです。おかげで時間がかかったなのです」
予定外のことが起きたのは想像していたが、二つ重なっていたとは不運である。
いや、全員帰ってこれたのだから運がよかったのかもしれないが。
「魔物についてはこちらで確認しましょう。あちらの扉から解体室へ。あなた、案内して。リーダーのアップルさんはこっちで手続きを」
「わたしは?」
「うさみちゃんは好きにしててください」
てきぱきと指示を出すマっちゃんに従ってアップルたちは行動を再開した。
「まさかと思いましたが、赤焔獣ですね」
「赤焔獣?」
「ええ、体に火をまとって襲い掛かってきたりしませんでしたか」
「来たなのです」
赤焔獣。
大型の、犬に似た獣である。
魔法的な能力を持っている魔物は少なくないが、赤焔獣もその一種で、炎をまとって戦う獣だ。
人間と同等の大きさの獣というだけでも厄介なのだが、炎のせいで接近するとやけどを負うことになるし、装備も布や皮なら燃えかねず、金属だと熱を帯びて大変なことになる。
「こんなところに出る魔物じゃないんですけどねえ。少なくとも、今までに目撃証言はありませんし」
「でもいたなのです」
「そこは疑っていませんよ。話だけでしたらともかく、現物があるわけですから。それにしてもすごいですね、アップルさんですかこれ」
この魔物が赤焔獣だとすぐにわからなかったのは訳がある。
頭がつぶれていたからだ。
鈍器でがつんぐちゃあしたような痕跡。
“花と実”のメンバーでこのような鈍器を使うのはトゲ付き鉄球のアップルだけである。
「よくわからぬまま一撃で倒したからな」
「えっへん」
「いえ、真面目にすごいですよ。この大きさの魔物は頑丈さも相応ですから」
「え、そ、そう?」
自慢げに胸を張ったアップルだが、続けて褒められるとテレ顔に変わる。
「力こそパワーなのです」
「そうね! ……褒めてるのよね?」
「なのです」
アップルとナノがイチャイチャしている横で、ケラサスが難しい顔をしている。
「事前に聞いた限り、あのあたりに出る魔物の中にその赤焔獣はいなかった。今も、そう言っていたな?」
「ええ。火山や炎樹という天然で燃える木の森なんかに棲む魔物です。これは流石に異常ですね。いい情報を持ち帰ってくれました。別途ボーナス出せますよ」
「やった!」
「なのです!」
喜びの声をあげる女性陣。ケラサスも頷いている。
「とはいえ、グレイプお爺は大丈夫かな。なのです」
グレイプはうさみに処置室へ連れていかれている。
うさみの神聖魔法で回復はしたが、再発すると予言された。
ナノの魔法では治せなかったのが問題だ。
今後どうするかを考えなければならない。