冒険者初心者とうさみ 43
魔物を倒すことが主目的になる仕事はいくつかある。
討伐。
特定の個体を倒すことが目的の仕事。方法やその後のことは問われない。探索能力が必要。
素材入手。
魔物からとれる素材が目的の仕事。該当の素材を万全な形で手に入れるための知識と戦法を要求される。
間引き。
一定の範囲にいる魔物の数を減らすことが目的の仕事。多数を相手にする状況が大いにありうる。特定種の魔物に限る場合も。
他に、別の目的で派遣されるが遭遇したら倒すことが条件の場合もある。
魔物も不利になれば逃げるので、倒しきれるだけの戦力と戦術が必要。
いずれも、ただ魔物と交戦して生き残る以上の何かが必要だ。
そしてその分報酬は高くなる。
冒険者ギルドは単純に仕事を斡旋するだけではなく、難易度や対象の種類によって報酬を調整している。
そうでなければ、例えば貧乏な村の近くに危険かつ実入りが少ない魔物が棲みついた際に討伐報酬が少ないせいで受注されない、といったことが起きてしまうからだ。
ギルドとしては仕事を受けているにもかかわらずである。
採算が合わない仕事でもギルドとしてはどうにかしないといけないが、冒険者のパーティの視点で見ればやはり受注しにくい。
冒険者ギルドが装備や必要な道具を負担してくれるわけではない以上、危険な仕事には相応の報酬がなければ戦力を維持できないし、一度の負傷等で再起不能になりかねないのだ。
結果、冒険者ギルドが報酬を上乗せすることで調整して受注を促すのである。
「それで、どの仕事を選ぶかだが?」
朝の冒険者ギルド、新しい仕事が張り出される瞬間が最も込み合う時間である。
その時間が過ぎて後、見習いたちが雑用仕事に振り分けられる姿を横目に、アップルたち“花と実”パーティは顔を寄せ合って話をしていた。
「美味しくない仕事を取っていこうと思うの」
もっと稼げる仕事をしようという話自体はケラサスとグレイプ、二人の仲間にも受け入れられた。
もともと、二人はそう主張していたのだから当然だ。実質ナノが了承すれば話は通っていたわけだ。
しかしそれでなぜ美味しくない仕事を取ろうという話になるのか。
「どういうことか説明してもらえるかの?」
「もちろんなのです」
アップルとナノは提案に当たって事前に相談していた。
「美味しい仕事は先輩方との取り合いになるでしょう?」
報酬は仕事の難度に合わせて増加するが完全に比例するわけではない。
ギルドが調整を行わざるを得ないくらいである。
そして美味しい仕事から受注されていく。
どういう仕事が美味しいか、それは先輩冒険者たちがよく熟知しており、取り合っているのだ。
「だが稼ぎたいというのだろ」
「それでも今までと同じか増えるなのです」
とはいえ調整が入っているのである。
割に合う程度には。
「まずは選べることを優先したいなのです」
「美味しくない仕事でも、強い魔物を倒せば成長できるし、経験積めるからって」
慎重派のナノが出した条件である。
戦う相手をじっくり検討して選ぶということ。
美味しい美味しくないとは言うが、得意な仕事はパーティによって違う。
美味しい仕事もパーティによって違ってくる。
“花と実”は駆け出しである。
戦闘能力こそ駆け出しとしては高いが、弱点も多い。
遠距離攻撃手段がない。
全開は成功こそすれ探索能力も万全とはいいがたい。
素材を魔物から採取するのも、初見の強敵からとなると難しい。該当部位に傷がつかないように倒し、さらに解体もうまくやらなければならない。
戦う敵を格上げしてかつ、美味しい仕事を選ぼうというのはリスクが大きいのだ。
「だからまず敵に慣れようということなのです」
より強い敵と戦って、戦い方や解体のしかたに慣れようということである。
そして戦う相手を選ぶ。自分たちで対処できそうなものを。
先輩たちと競い合って勝ち取ったものが、うっかり自分たちにとって実は難しいものだったというのは避けたいところ。
だからまずは選べる立場で下調べをしつつ受注すると。
そういうことだ。
「敵の格上げをしないという手もあるが?」
今まで戦ってきた程度の敵で、条件を選んで収入を増やす選択肢もある。
しかし。
「それを狙うとやっぱり他のパーティと取り合いになるし。強い敵を相手にできるようになれば選択肢が増えるからね」
ギルドが用意する仕事はいつも同じものばかりではない。
敵に比して報酬が高い美味しい仕事を狙っているのは皆同じである。
取り合いになれば狙い通りの仕事を受けられるばかりではない。
ならば安定してお金を稼ぐことを重視するなら選択肢を広げることの方が必要だ。
慎重さを優先してきた今までとは方針が変わるのである。
さらに。
「強い敵と戦えるようにならないと進歩しないと思うわ」
「それはそうだな」
“花と実”の優位な点は、駆け出しとしては正面戦力が高いことだ。
生かすべきはそこ。
強い敵を倒せばより強くなれる。
美味しい追加条件を追うよりも確実に選択肢を広げられるだろう。
というのがアップルの意見である。
そしてそれはケラサスも同意する。
グレイプもどちらかといえばそうだ。何かあった際に自身がカバーできる方向性も武力だからだ。
ナノとしてはもうちょっと慎重でいいとも思うが、現状からステップアップする必要も感じている。
装備の更新、神聖魔法用の資金の確保、より安全性を高めるにも収入を増やせるに越したことはない。
「じゃあそういうことで。とりあえず候補は――」