使い魔?うさみのご主人様 11
魔術とは手続きであると偉い人は言った。
特定の要素を決まった手順で組み合わせることで発動する。
発動すると魔力を消費して効果を発揮する。
ただ、要素一つ一つの理解度が効果に影響するとか、組み合わせの意味を知ることこそが重要であるとか諸説ある。
これは同じ魔術を使っても、効果の強弱や質の変化があることから生まれた仮説で――というのはとりあえず関係ないのでおいておいて。
要素というのは魔術的に意味のある行為が示すものを指す。
わかりにくいが、例えば地面に数字で一と書いても、口頭で「いち」と発音しても、人差し指を立てても、「ひとつ」という意味をもつ、ということと似ている。
要素を示す手段は複数存在し、どれを使っても正しく示すことができれば同じものとみなされる。
その要素を組み合わせていく。
手をたたき、指を二本立てる。両手を組み合わせて円を作ったのち、片手を目の上にあててひさしのように。
ぱん。 つー。 まる。 みえ。
例がひどいが、このような、おいぃマジかよと言いたくなる組み合わせ方でも意味が通ることがある。
それでも主流となる表現方法というものがある。
一番はやはり口頭による呪文の詠唱だ。
言語に似ているので言語で示せばわかりやすいというわけだ。
ほかに身振りなどの身体動作や魔術陣、物質媒体などもよくつかわれるし、それらを組み合わせることも多くある。
そして組み合わせたものを伝達することで他者に魔術を教えることができるわけだ。
さて、学院で教えられる魔術は先人が長年かけて洗練させてきた魔術である。
洗練されているということは要素選別から組み合わせ方までが決まっており、その通りにすればとりあえず魔術は使えるといっていい。
しかし、一歩進んで使いこなす、もう一歩進んで改良したり、さらに進んで自作したりするとなると、より深い理解が必要になってくる。
基本的には四肢を自由に動かせる前提で直立し杖を持ち、精神的にも落ち着いた状態を想定されている。
要素の多くを呪文の詠唱を利用しているが、
間違っても走り回りながら、息を切らせて、意味があるんだかないんだかわからない言葉を投げかけられつつ、命の心配をしながら使うという状況は想定されていないのである。
したがって、メルエールは明かりの魔術を成功させられないのが当然である。
というか呪文を口にしながら走るのだけでしんどい。超しんどい。
ただでさえ、なんだか普段より体は重いのだ。
結果、メルエールは死んだ(比喩表現)。
こひゅーこひゅー。
敷地内にある長椅子でのべーっと横たわるメルエール。
あたりはすっかり明るくなっており、食事の時間が近いためか朝の鍛錬などしていた他の学生が寮へ戻っているのがちらほら見える。
結局、魔術は成功していない。
「朝ごはん前に二時間も走ればそうなるよね。っていうかよくもったよね。ご主人様体力あるぅ」
一方うさみはケロリとしていた。
うさみの課題は、逃げるうさみの前で、走りながら明かりの魔術を成功させろというものだった。
なのでメルエールはうさみを追いかけていたわけだ。
つまり同じだけ走っているはずなのだけれども。
同じどころか、まるでメルエールの呪文の詠唱を邪魔をするかのように話しかけてきていた。
足が上がってないだとか、言葉がつながってないだとか、あ、ゆーほーだとか、あの花キレイだとか、犬がいるから道を変えますだとか。あと嘘だけど死ぬ死ぬ嘘だけどとか。
それに、ちょろちょろ目先を変えて動き回っていたので運動量はうさみの方が上のはず、なのだけれども。
メルエールは体力には自信があった。
魔術を使わない単純な身体能力は貴族の平均は大きく超えていると自負していた。
貴族は戦闘を指揮する身分である以上、魔術重視とはいえ体力が要求される。メルエールはその中でも上のほうというわけだ。魔術と違って。
それがどうだ。
正直このちっちゃいエルフがこんなに動けるとは思ってもみなかった。細いしぷにぷにだし。
でもまあほら、追いかけていた以上、うさみの速度で走っていたわけでメルエールに合った速度ではなかったし、ギリギリ互角かな。
魔術が成功しなかったのは体力と関係ないし。
しかしギリギリ互角とはいえ、見た目からすれば驚嘆すべきである。
「なんで……そんなに……」
「わたし最近まで農家やってたから!」
農家ってすごい。メルエールはそう思った。