冒険者初心者とうさみ 41
「ねえ、アップルどうしたの?」
冒険者パーティ“花と実”が、アップルの故郷の村からの討伐仕事から帰ってきた日のこと。
反省会もそこそこに解散、アップルが酒場でぶすーッと不機嫌そうに黙って座り、土団子をいじっている。
おかげでアップルの周囲だけ、空気が悪い。いつもなら声をかけてくる友人知人も、遠巻きに様子をうかがっているありさまだ。
そんな中、一緒に食事をしていた見習いを解散させたうさみが、ナノを呼び寄せて小声で尋ねたのだった。
「あー、ちょっと実家でご家族と喧嘩になったなのです」
ナノはため息をついて事の次第を話し始めた。
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魔物の捜索、そして討伐は問題なく成功し、男性陣は村長の家に、アップルとナノはアップルの実家に一晩泊めてもらうことになった。
その夜のこと。
「ちょっとアップル、仕送り少ないわよ」
「え、あたしだって結構切り詰めて捻出してるんだけど。お土産も渡したじゃん」
「こっちは五人いるんだからこの五倍はもらわないとだめね」
「は? 無茶いわないでよ!?」
「これっぽっちじゃあない方がマシだな」
「お父さんまで!?」
「そうね、切り詰めてこれだとこうしてうちで歓待する方が負担だから。もっと稼げるようになるまで帰ってこなくていいわよ」
「お母さん!?」
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「で、大喧嘩なのです。私は別室でちびちゃんたちを寝かしつけていたので漏れてくる声しか聴いてないのですが、最終的にはもういいそんなに言われるなら仕送りしない、と朝方に決着がついたなのです」
「うわー」
うさみが引いていた。
ナノはしかし、話を続ける。
「話はこれで終わりじゃないなのです。」
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「ナノさんちょっとよろしいですか」
「何なのです?」
街への帰還の支度の途中、ちょうどアップルがいないときにアップルの母親に呼び止められ、ナノは不機嫌なのを隠さずに対応した。
アップルに対するアップルの父母の態度は腹に据えかねていたからだ。
「昨夜はどうもご迷惑をおかけしまして」
「え、あ、はあ。なのです」
しかしアップル母は昨夜怒鳴り合っていた雰囲気とはまるで違う柔らかい態度で頭を下げてきたので、ナノは面食らった。
「実はですね、あの子が仕送りのために無理をしようとしないように見てやってもらえないかと、ええ、お願いできればと思いまして」
「……? どういうことなのです?」
お金のことしか頭にない親御さんかと思っていたが、どうも言っていることが昨夜と反対である。
この後、アップルがいかにお転婆だけれど親孝行ないい子だったかをさんざん聞かされ。
「そんな娘を口減らしに追い出した私たちのために、自分の生活を犠牲にして仕送りをしなくても、もっと自分のことを考えるべきだと思いませんか」
「な、なのです? じゃあ、昨日のは演技だったということなのです?」
アップル母のアップル愛を延々聞かされお転婆なところに手を焼いたことも存分に聞かされ、ナノは複雑な思いだった。
ナノには親がいないので。
それはともかく。
「ああでもしないと、アップルは無理をして仕送りを捻出しようとするでしょうから。実際に、切り詰めて捻出したと言っていましたし」
「あー、それはまた別の事情があったなのです」
「でしたらなおさらですよね」
少しでも早く装備を整えるために節約はしていた。
鎧を予定より安く手に入れることが出来たので、浮いたお金を今回仕送りとして渡したのだと思われる。
鎧があればワンランク上の狩場を選べるようようになり、そうなれば収入も少し増える。
金銭神風に言えば、投資のための予算圧縮の結果であって。
とはいえまあ、自分たちが不義理をした娘が無理をして仕送りをしようとしているのは心苦しいかもしれない。多分。そうなのかな。わかんないけど。なのです。
「まあその、わかりましたなのです」
「よろしくお願いします。あ、この話は娘には内緒で」
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「というわけなのです」
「アップルに、お母さんとのやりとり全部教えてあげな、今すぐ」
話を聞き終わったうさみはナノにそう指示した。
「え、でもお母さんは内緒と言っていたなのです」
「そのことも含めて。嘘で人の繋がりを切ろうっていうのは見過ごせない話だよ。それが本人でも。金銭神様に連なるものとしてね」
「むー。わかりましたなのです」
ナノはどこか納得できない様子だったが、アップルのもとへと向かっていった。
「冒険者とか、いつ死ぬかわからないのに」
うさみはため息をついた。