冒険者初心者とうさみ 40
「予定外なのです」
「これは、まあ内容は問題はないだろうが」
「拘束期間が長いの」
本日未明、冒険者パーティ“花と実”のリーダー、アップルが、パーティの方針と異なる仕事をとってきたとして、メンバーから突き上げを受けていた。
「そこをなんとか。ここ、あたしの村なの」
仕事の内容はよくある魔物の討伐。
でも一つだけ特筆すべき点があった。
依頼主がアップルの出身地だったのである。
「むー。なのです」
頭を下げるアップルに、腕を組んで考えるナノ。
現在のパーティの方針は、採集を兼ねて採集物や地形、魔物の知識や対応経験を重ねていこうというものである。
魔物と遭遇すれば倒すが、特定の魔物を狙って討伐するという仕事は受けていなかった。
出会った相手を倒すのと、探して倒すのでは必要な技術が違うのだ。
具体的には痕跡から魔物の居場所を突き止める能力が必要である。
アップルたちはそういった追跡能力はまだ勉強中なのである。
狩人や野伏出身であればともかく、場数をこなして覚えるしかない。
注意すべき点などは講義で教わりはしたが、実際に見て気づけるかというのは別の問題なのだ。
そういうわけで採集仕事の傍ら「あ、これ痕跡じゃない?」「そのようなのです」などといったやり取りをしているのが現状だ。
正直専門家を加入させたい。
とこのような状況であるので、討伐の仕事は受けないようにしていたのだ。
であるにもかかわらず、アップルが仕事をとってきたのである。
まだ受付で承認を受けていないので取り返しは効くのだが。
アップルの地元となると判断が難しい。
頭を下げられて、ナノは迷った。
知り合いが、家族が住む場所が魔物に脅かされているとなれば気になって当然だ。
ナノは街の孤児院出身なので同じ状況にはなることはないだろうが、孤児院の子どもたちや先生たちが危険とわかれば冷静ではいられないと思う。
とはいえ私情で受けて成功させられなかったらどうだろうか。
いやしかし、受けなければアップルが使い物にならなくなる可能性はないだろうか。
判断がつかず、ナノは男性陣に目をやった。
どう受け止めているかと。
「我はかまわんぞ。だが、せっかく鎧を更新できたのだ。家族や知人に見せて回ってもよかろう」
「現地に案内がいればよいがの」
「狩人のおじさんが腰の調子が良ければ……」
「腰か……」
男性陣は前向きだった。
考えてみれば男性陣はもともとガンガンいこうぜ派だった。安全重視は主にナノの意向をみんなが汲んでくれた結果だ。
アップルが向こうに回れば仮にナノが反対しても三対一である。
「しょうがないなのです。アップルの故郷の危機ならば、多少頑張ってもいいでしょうなのです」
「ナノ! ありがとう!」
アップルはナノに抱き着いた。
ナノは気づいた。あれ、こいつ胸が少し大きくなっていないか。胸筋だけではなく。
「グレイプとケラサスもありがとね」
「なんだ、こっちには抱き着かんのか。まあ貧乳に抱き着かれても困るが」
「ケラサス」
グレイプがケラサスをゴツンした。
「ああっ、つぎは自分で拳骨したかったのに」
「出遅れたなのです……。あと、アップルは成長しているのです……!」
「へ?」
「ほう」
「はあ」
なぜかナノが悔しがっていたが、ひとまず、仕事を受注することになった。