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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
177/494

冒険者初心者とうさみ 39

 季節は巡り春になった。


「熊強かったね」

「正面から殴り勝っておいて何を言うなのです……」


 反省会。

 今回の仕事では、熊と遭遇した。

 熊は強敵だ。

 巨体からくる膂力もさることながら、毛皮の防御力がまた厄介。

 刃を通しにくく、打撃にも強い。

 攻防ともに決して侮れない強力な生き物だ。


 アップルはそれと殴り合って勝利した。


「【足場崩し】使ったから正面からっていうのはちょっと違うんじゃ」

「それを踏まえても、十分な結果ですな」

「うむ、踏み切る瞬間を狙って足場を崩せるのも、それでできた隙をついて鼻っ面にトゲ玉をたたき込めるのも、日ごろの研鑽と、お前の勇気によるものだ。誇るべきだ」


 熊は彼ら、“花と実”の活動範囲では、物理的には最も強いだろう相手だ。

 これを打ち倒せるなら、その実力は駆け出しの域を超えていると言っていい。

 高速で動く相手の接近に合わせて魔法を唱え、踏む場所の土を変形させるというのも曲芸の域だ。

 その後のトゲ付き鉄球の滅多打ちでの封殺も。


 例えばグレイプならもっとスマートに倒せるだろう。

 逆に言えばスマートにでなければ倒せない。

 もっと若いころなら正面から盾で受け止めて急所に剣をぐさりとやれただろうが、今それをやると腰がマズいことになるかもしれないので可能な限り避けたいところ。


 アップルは先手を取れれば強靭な魔物を倒しきれるだけの能力を上げるを証明したのだ。

 ナノとケラサスはまだその域ではない。

 今後、より強い魔物と戦おうとするなら、熊を正面から打倒できないまでも、あしらえるだけの実力は必要だ。

 より大きく、より強靭な魔物はたくさんいるのである。

 その上で魔法的な能力を兼ね添えているものもいるという。


 そしてそういう魔物が棲む場所で活動できるようになれば、より多くお金を稼ぐことができる。

 敵の強さに比例して報酬が、ではなく、桁が増えていくといっても過言ではない。

 逆に言えばそれだけ危険なのだ。


 ともあれ、まだまだ先は長いというわけだ。

 成長を実感できたのはうれしいが、喜んでばかりはいられない。

 大体魔法も地味なやつ一個だけだし。ケラサスの火の魔法を真似しようとしているけれどまだ成果は出ていない。

 アップルは気を引き締め直した。


「アップル褒められてめっちゃニヤケているなのです。ちょっと男の子に見せられない顔なのでケラサスは目をつむれなのです」

「えー」


 引き締め直した!


「こほん。えっとー。ナノは槍はどうだった?」


 アップルが話を変えることにした。


「うーん、刃の向きを気にするのがちょっと手間なのです。突く分にはあまり気にならないなのです」


 この度、ナノの武器を棒から槍に更新した。

 刃がついて殺傷力が上がった、というだけではない。

 刃のついた武器は、やはりただの棒とは違った扱いがあるのだ。


「そうじゃの、しっかり使い込むことよ。しばらく重点的に手ほどきするかの?」

「お願いしますなのです」


 グレイプは剣と盾を使っているが槍にも精通している。馬上槍のほうが得意だと言っていたが。

 ナノは槍を購入した日にそのグレイプから簡単に手ほどきを受けていたが、やはり実戦とは勝手が違った。


「剣もかじってみてもいいかもしれんの。刃の使い方の参考になる」

「なのです?」


 棒と槍は長物。剣と槍は刃物。棒と剣に習熟すれば槍にも習熟できる……というのは暴論かもしれないが、参考になるかもと言われればそうかもしれないと思える。

 剣はありふれた武器であるし、使えて損はないだろう。

 ということでナノは剣と槍の稽古をすることになった。


「あ、それならあたしも!」

「アップルだと安い剣を振り回したらすぐにひん曲がって使えなくなるのではないか」


 いい剣は高価である。安い剣も剣としてはというだけでそんなに安くはない。

 使われている金属量の問題だ。

 トゲ付き鉄球も大概だが、耐久度は大きく違うだろう。


「うっ。でも、予備の武器は持ちたいし」

「斧はどうだ? あれなら剣より頑丈だろう」

「あたし力馬鹿みたいに思われてない?」


 鈍器に斧。

 うん。ええ。そうですね。

 ケラサスは目をそらした。


「我も新しい武器が欲しいな」

「ケラサスの剣より良い武器はそうそうないでしょうな」

「わかっているが、こう、新しい武器がうらやましいのだ。わからんか」

「わからなくはないですがな」


 グレイプは苦笑した。

 グレイプも新しい武器にワクワクした経験はあるのだろう。


「まあ、女性陣の防具が先ですな」


 グレイプが肩をすくめた。

 今回倒した熊皮を使えないかと交渉中である。

 穴が各所に空いているので使えるかどうか調べてもらっている。

 トゲだ。


 アップルは顔を背けて口笛を吹いた。

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