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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
176/494

冒険者初心者とうさみ 38

「魔法の修練法? 構わんが、我のはおそらく参考にならんぞ」


 一泊二日の仕事の後に一日休みを挟む、というのが最近の“花と実”の活動サイクルであるが。

 しかし休みと言ってもお金もあまりないし、装備の整備が終わったら暇になる。

 その時間を使って、グレイプに稽古を付けてもらうことが多い。

 最近連携というものを考えるようになってきて、そうすると一緒に訓練を、それなら一番強いグレイプが教える形に、とこういう流れだ。



 そしてこの日、その稽古の間の休憩に、ナノと、ついでにアップルは、パーティの最年少、ケラサスに魔法についての教えを請うた。


 魔法についても地味な修行の繰り返しが徐々に成果が見えてきたところで、もっともっともうちょっと、という気分のアップル。

 他の人のを見て覚えろと(魔法ではなく神聖魔法の)お師匠様から言われたナノ。


 明らかに育ちのいい、火と光、二つの属性を一応扱えるケラサスなら、役に立ちそうなことを知っていそうだし、土団子といじるばかりの誰かとは違うなにかを見られるだろうとそういう考えである。

 思いついた勢いで、ケラサスに頼んでみたのである。


「こういうのは秘伝の場合も多い。まあ我はすでに気にする義理もないから構わんが、気にする者、特に正規に習得した者は気にするからな。あまり聞いて回るなよ」

「う、わかったわ」

「なのです」


 年下の男の子に窘められた。

 この時点でかなり二人の勢いはおさまり冷静になっていた。

 とはいえ、話す気になっているのを尋ねた側が断るのもおかしい話なので最後まで聞くことにした。


「まず、きゅうて……あー、偉い魔導師に基本を教わってな」

「すでにここが再現できないなのです」

「地位かお金か両方が必要そうね」


 これだから元だか実はだか偉い人は困る。

 アップルとナノはひそひそと言葉を交わしつつ、それを気にもしていない様子のケラサスの話の続きを聞く。


「次に、事前に捕らえた強い魔物と戦う」

「は?」

「え? なのです」


 なんで?


「もちろん、護衛アリでだが。そして戦う中で魔法を使い、魔力が切れたら逃げる。魔物は別の者が拘束し、それにとどめを刺す。これを、幼少のころに一度やるのだ」

「…………」

「…………」


 なんとも言えない沈黙が生まれる。

 ちょっと思ったのとは違う。

 確かに参考にならないかも。


「なんで一度なの?」

「二度目以降は効果が薄まるらしい。それに単純に危険だからだな。何度もやっては、死ぬ危険が増える。だからそれ以降は地道な稽古だ」

「子どもに戦わせるなのです?」

「ああ。魔物を殺せば強くなるのは知っているだろう? 強い魔物ならより強くなることができる。そして、魔物を倒すのに使った技術も高まる。神々の思し召しだそうだ」

「んん、そういえばそういう話もあるなのです」


 神々と聞いて、ナノが神書にある一節を語る。

 神様が人間が使命を果たすために力を与えてくれたというお話。

 そしてその続きとして、より厳しい試練を与えられた人間が、それを乗り越え力を得て英雄となるお話。


「これと似た話もいくつかあるなのです。苦労した人が新たな発見をして成功するという構図なのです。

 辛くても頑張ればいいことあるよ、というのと、ガンガンいこうぜ、というのと解釈が分かれているそうなのです」

「魔物を倒して強くなったってだけじゃないのね?」

「魔物を倒さずとも、撃退しただけでも腕が上がったという例もあるようだ。そうでなければあの慣例も、とどめを刺すだけで終わっていただろう」


 ケラサスの言葉の途中で、アップルはナノを見た。

 ナノは苦笑いを浮かべている。


「ああいう経験はたくさんなのです……借金もできたしなのです」


 虎狼の件でナノは実際に大きく成長した。

 が、ひどい目にも遭っている。さらには借金まで背負っている。

 難しい話だ。成長のために死んだら意味がない。

 あの時は本当に不幸中の幸いだったのだ。普通の魔物は獲物を弄ばずにすぐに殺すだろう。

 その分余計に苦しんだともいえるが。


 ケラサスは空気が変わったことを察したのか話の方向を修正する。


「そういうわけだ。あまり参考にはならなかったろう?」

「まあ、子どものころにやれっていわれてももう子どもじゃないしね。手順も面倒でお金がかかりそうだし」


 強い魔物を捕まえるだけでいくらかかるか。


「そんな訓練をしても、ケラサスは私と同じくらいだし」

「ぬ。いや……まあそうだな、そう直接言われると腹立たしいが」

「あ、ごめん」


 別の意味で空気が変わった。


「なに、気にするな、事実だ。たとえ、我の能力が封じられているとしてもな」


 目をそらして膨れるケラサス。

 あいかわらず偉そうではあるが、年相応の所作に、二人はあ、この子年下だったっけと思い出した。

 同時に。


「能力が封じられてるって」

「かっこいいなのです」

「え」

「と、去年なら言っていたなのです」


 拗ねたケラサスと、二人のひそひそ話。

 腰をさすりながら処置室から帰ってきて休憩の終わりを告げようとしたグレイプは、三人の様子を見て何事だろうかと首を傾げるのだった。

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