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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
174/494

冒険者初心者とうさみ 36

「「「「かんぱーい!」」」」


 アップルたちのパーティ、“花と実”の結成から一か月が経過した日、彼らは仕事を終えた打ち上げの宴会を冒険者ギルド併設の開催していた。


 と言っても、既に恒例のことであるし反省会も兼ねたもので特別いいご飯を食べるとかいいお酒を飲むとかするわけではない。

 いやまあ仕事中は味気ないかしょっぱいかの保存食なので、酒場で食べている時点で平均よりいい食事ではあるのだが。


 とりあえず生きて帰ってこれたことを祝って内輪の宴会を開くというのは多くのパーティが同様に行っていることだ。



「さて、今回も無事に成功したな。今日で一か月になるが、お前たち、手ごたえはどうだ」


 最年少にして一番偉そうな少年、ケラサスが話を切り出す。

 リーダーとされているアップルよりもリーダーっぽいし立ち居振る舞いがしっかりしているのがアップルは若干不満だが、正体がガチで偉い人だろうことは察せられるので口には出さないようにしている。こわい。


「思っていたより魔物と会わないわね。季節のせいかな」


 代わりと言っては何だが、それ以外のことは思ったことを口にするようにしている。

 軽く現状を振り返ると、パーティ結成から、主に一泊二日の薬草採取の仕事を受けてきた。

 特定の薬草を持ってくるものではなく、指定された範囲をまわって有益な薬草を探すものだ。

 薬草の種類や扱いは冒険者ギルドの講義や雑用仕事の折に教えられている。


 範囲が指定されているのは魔物の間引きも兼ねているからで、仮に薬草が全く見つからなくても報酬はもらえる。もちろん採取したほうが、そして魔物を買ってくればさらに、多くのなるわけだが。


 基本的には魔物の危険度は街からの距離に比例する。

 日帰りできる範囲は見習いの雑用仕事に振られており、一泊二日の範囲の仕事は駆け出しの正規冒険者向けの仕事とみられていた。


 そして、今までの仕事では平均して一度の仕事あたり一回程度、魔物との交戦があった。

 これが多いのか少ないのかはわからないが、アップルとしてはもっとバンバン戦うことになるものだと思っていた。


「今の交戦ペースは少ない方なのです。そして冬に魔物の数が減るかどうかは、場所と魔物の種類によるみたいなのです。ただ全体で見ると少なくは、なるようなのです」

「縄張りにしている魔物次第ということかの」

「なのです。ただ、縄張りも変化することはあるなのです」

「詳しいな」


 ケラサスが感心してナノを褒める。

 が、ナノは苦笑いで目をそらす。


 先日、虎狼に遭遇して死にかけた件以降、ナノは魔物の縄張りについて冒険者やギルドに尋ねて調べて回っていた。

 その結果、いくら情報を集めても絶対安心はできないことがわかった。それはそれとして調べておくのは有益だということも。



 件の虎狼の群れはすでに討伐されている。しかしギルドとしては当面は要警戒だと判断していた。

 虎狼がなぜ移動してきたのかつかめていない。強力な魔物が縄張りを変える以上何か理由があってしかるべきなのだが、それだけ危険な場所の調査に回せる冒険者も限られている。

 最近有力な冒険者パーティが現れたので助かっている


 他に、全く成果が上がっていないわけではない。

 いくつかの狩場で今まで見かけなかった魔物が出没する例があったのだ。

 これが虎狼とおなじ原因によるものが、あるいは虎狼自体が原因なのか。今後大規模な変動が発生するかどうか、ギルドは慎重になっている。


 という情報をマっちゃんから仕入れることができていた。


「加えて、これから春になって冬眠する種が動き出す時期は要注意だそうなのです」


 熊が冬眠するのは有名だ。

 カエルや蛇なども。

 こういった魔物が冬眠から起きたとき、他所から来た別の魔物が幅を利かせていたらどうなるか。

 さらなる縄張りの変動が起きる可能性は十分にある。


「ナノ、ありがと。これからも、気にしとかないとね」


 アップルも気にしていないわけではない。

 ただ、ナノがとても、すごく、いっぱい、気にしているだけだ。異常とか病的とか言う言葉は使いたくないが、一度死にかけたことが関係しているのだろうとは思う。


「とはいうがな、今のところは戦闘に不備はない。もう少し相手をする敵の格が上でも問題なかろう。なあグレイプ」

「比較的魔物が活発ではない冬のうちに強めの敵と当たっておくというのも一つの考えではありますのぅ」

「確かに、もっと魔物を倒して強くなっておけばあとがより安心できるかもしれないけど」


 見習いは卒業しても、冒険者としては駆け出しだ。

 慎重に動いてきたが、戦いで苦戦することはなかった。

 半分くらいはグレイプのおかげだ。寒くて関節が痛いとか言ってても戦いになると別人だった。

 そのグレイプが元気なうちに強い魔物と戦っておくというのはアリだとアップルは思う。

 一年以内に引退するようなことはないとは思うが、お爺ちゃんだ。


 とはいえ。


「万が一を考えると、余力を持って戦えるところにするべきなのです。もし危険な魔物が出たときに逃げられる程度の余力は必要なのです。今挑戦するのは時期が悪いなのです」


 ナノが慎重派である。

 ギルドが慎重になっている今、新人の自分たちがあえて挑戦的なことをするべきではないというのもまた、一理ある。

 “冒険”者という名には反するかもしれないが、アップルとナノの目的はあくまで自活して仕送りすることなのだ。


「うん。あたしもナノに賛成ね。せめて鎧くらい調えておきたいわ」


 現在の防具は布の服である。

 革のマントもあるが、防具としてはあまり期待できない。ないよりはいいが。


「そうか。では決まりだな」

「ですな」


 ケラサスとグレイプは提案を取り下げる。こっちは女性陣よりは防具が充実しているので、危険度が違うということもある。

 そうでなくても、自分たちが祭り上げたリーダーの意見を尊重してくれていた。

 アップルとしては不満が帳消しである。


「今のペースだと、なにもなければ夏前くらいには手が届くなのです。途中様子を見ながら少しずつ難しい仕事も覚えていけばもうちょっと早められるかもなのです」

「それじゃあ次の装備の更新を目標ということで。がんばろー」

「おう」「うむ」「なのです」



 “花と実”パーティは順調だった。

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