使い魔?うさみのご主人様 10
「苦っ! マズッ! なにこれ」
朝。
メルエールは日が昇るより早くうさみに起こされた。
そして謎の液体の入った容器を渡された。
中を見ると緑でドロドロしている。
飲めというので一度口をつけて理解する。
これは人間が飲むということを考慮してない物質だわ。
「これ人が飲めるものなの?」
思わず尋ねてしまうまずさである。苦くてくどくてえぐくて青臭い。
「飲めるに決まってるじゃない。ほら」
うさみが自分の分をごくごくと飲み干す。うっそなんで飲めるのこんなまずいもの。
「頑張って飲んでね。鼻つまんだら気持ちマシになるかも」
ぐえー。
起き抜けからなんという仕打ちだろうか。
ためらっていると、うさみがじっと見てくるので、メルエールは覚悟を決めて飲み干した。
鼻はつまんだ。
マズいものはまずかった。
「これ一週間毎日飲むからね。よかったね、一年じゃなくて」
「え」
え。
嘘よね。
嘘だと言ってよ。
メルエールは目の前が真っ暗になった。
メルエールは『もしかすると死ぬかもしれないやつ』を選んだ。
理由は単純で、一年かけていては間に合わないと思われたからだ。
いくつかある必修課題について、すでに使い魔召喚失敗というボロが出た身では自信がもてなかったのである。
かといって『死んだ方がマシ』はヤバそうだ。
『死ぬかもしれない』より期間が短いあたり想像もつかないヤバさを感じる。
消去法であった。
消去法で『もしかすると死ぬかもしれない』だなんて選択肢がおかしいんじゃないのと後で思った。
さておき。
それじゃあ明日の朝早起きして始めようねということになり、現在に至るわけである。
「それじゃあ、走ろうか。時間ないし、説明は走りながらで」
「なんで魔術の訓練で走ることに」
「説明は走りながらで」
外に出た。
朝の空気がすがすがしい。
そして体がだるくて重い。風邪でも引いたのか昨夜勉強で遅くなったせいかはたまた早起きしたせいか。
うさみが前を走り出したのでついていく。
学院の運動場へ向かうつもりらしい。
「これは嘘なんだけど。さっき飲んだのは毒で、体の働きを阻害するんだ。風邪ひいたりした時みたいに感じるかな。熱は出ないけど体が重く感じるよね。この解毒剤を飲めば治るんだけど、飲まなかったら四半日ほどで死にます」
「は?」
うさみが持っていた小袋から取り出した、指先より小さい丸いなにかを見せてくる。
意味が分からない。
死ぬの?
え?
「だから嘘だってば。あむ」
「そうよね嘘よね?」
うさみは丸いものを口に入れてごっくんと飲み込む。
そして、にがーっという顔をする。
「それはなに?」
「だから解毒剤。嘘だけど」
こいつはなにをいっているんだ。
メルエールは混乱した。
体重いんですけど。
でも嘘って言ってるわよね。
自分だけ解毒剤飲んだ?
でも嘘って言ってるし。
死ぬかもしれないんだっけ?
でも嘘って……死ぬかもしれないのは嘘って言ってないわね。
「……それはあたしにくれないの?」
「欲しいの? 欲しいよね。まあ飲まないと死んじゃうもんねー。嘘だけど」
うさみがニコニコとしゃべっている。
意図がわからない。死ぬと思わせたいのか、いや嘘って言ってるしな。どっちなの。
「じゃあ練習がうまくできたらあげるね。今日の課題は走りながら明かりの魔術を成功させることね。朝ごはんまでに成功してね。それくらいなら、もつはずだから」
もつって何が。
毒のこと?
毒が回る前に解毒剤を口にできるって言いたいの?
いやでも毒は嘘よね。
……嘘よね?
メルエールはうまく集中できない。
体の重さと、毒の話と、嘘の話が邪魔だ。
「って、走りながら魔術なんて使えるわけがないでしょう」
「がんばって。何回もやってみてね。わたしは逃げるけど、わたしがわかる場所で成功しないとダメだからね」
メルエールの抗議は無視され、うさみが走る速さを上げた。