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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
169/494

冒険者初心者とうさみ 31

「余……じゃなかった。我がケラサスである」


 日を改めての会合でグレイプから紹介されたのは、こぎれいな格好をした子どもだった。

 桃色の髪を短く切りそろえた男の子。十から十二くらいだろうか。

 うさみさんよりは大きいが、体格はまだ子どもらしい繊細さを保っていた。


 いいとこのお坊ちゃん。

 偉そうな態度といい、生意気そうな目つきといい、高そうな服といい、そこらの一般人ではありえない情報が満載だ。

 ちょっと治安の悪いところに行ったら誘拐されそうである。


「髭爺、あたしたち、冒険者のパーティメンバーを探しているんだけど」

「お孫さん自慢を聞きに来たのではないなのです」


 アップルとナノはいちゃもんをつけて逃げ出そうとした。

 絶対にこれ厄介事だよ。そんな確信があった。

 大体この男の子、冒険者ギルドで見かけたことがない。

 見習いでないとなれば何なのか。

 わかりません。


「まあ待ってくれんか二人とも。このケラサスさ……ケラサスはワシの弟子でしてな。実力的には二人と釣り合うのは保証できる。あと孫ではない」

「何、この娘たちはそれほど強いのか。見た目ではわからんものだな。可愛らしい女性にしか見えん」

「あらやだなのです」


 ほめられたナノが口に手を当ててう笑顔をこぼす。

 アップルは偉そうな喋り方をされることに違和感があってそういう気分にはならなかったが。

 どちらにしても次の一言で台無しになるのだが。


「どちらも胸が小さいのが難点だが」

「「殴っていい?」なのです?」


 アップルとナノがグレイプに尋ねるのとグレイプが拳でケラサス少年をゴツンするのは同時だった。


「あいとゎっ」

「年若い女性にそういう話を振るのは紳士としていかがなものかと」

「いや、爺、若い者の間ではこれくらいは挨拶だぞ。なあ?」


 頭をさすりながら女性陣に同意を求めるケラサス少年。


「ものすごく不快だったなのです」

「次は自分で拳骨します」

「ひぇっ。目がマジだ。ごめんなさい」


 大げさにおびえてから頭を下げるケラサス少年を見て、アップルとナノは顔を見合わせた。

 思ったよりあっさり頭を下げたね。

 偉い人って謝らないものだと思っていたなのです。

 目線で会話する二人。

 まあそれはそれとして。


「それで、このマセガキ様と一緒ならということだったらお断りする方向で」

「なーのでーす」

「まあ待ってくれんか二人とも」


 子どもとは言え初手セクハラを仕掛けてくる相手はごめんである。あと子どもだし。

 ついでに言えば。


「厄介事に関わりたくないです」


 なんか余とか言いかけていた。

 自分のことを余とか呼ぶのは物語の中でしか知らないような偉い人であるというのがアップルとナノの認識である。

 そういう偉い人が冒険者。


 グレイプだけでも結構場違いなところはあるのだが、老後の第二の人生とか死ぬ前に一花咲かせたいとか言っていたし実力が伴っていたのでまあありかなと、アップルたちを含め見習いたちは納得していた。

 しかし、このケラサス少年と合わせてということになると一気に違和感が増す。

 物語ならお家騒動とかお馬鹿なボン出奔とかそんな感じで、話に聞くならいいけれど自分が直接関与はしたくない、そんなアレじゃないかと。


 偉い人に関わって無礼打ち、なんてことは現実的にありうる。

 こわい。


「余……我のせいで貴人の厄介ごとに関わることにはならぬぞ」


 多分。

 ケラサス少年が小さく言い添えたのをアップルは聞き逃さなかった。


「誘拐はあり得そうなのです。まず服が高そうで仕草も貧乏な駆け出し冒険者に見えないなのです」

「安物に買い替えればよいか?」


 気に入っているのだがな。


「なんか暗殺者とか送り込まれたりとか」

「ないない」


 多分。


「吟遊詩人が歌うような大仰な話にはなりませぬよ。死んでもいいとは思われているじゃろうが、死んで欲しいとまで思っているものはいないはず」


 何かしゃべった後に小声でつぶやくのは癖なのかわざとやっているのか。

 アップルとナノの懸念は晴れそうにない。

 グレイプもはっきり言い切ってくれないので不安が消えない。

 やはり交渉は決裂か。


 というところで。


「よし、ならば一年協力してくれれば準備金を出そう。それ以降組むかどうかは一年後に話して決める。どうだ」


 とケラサス少年が言い出した。

 服を買い換えればまとまった金になるだろうからと。

 そんな高い服を着ているのかというツッコミよりも先に出たのは。


「いくら?」


 という言葉だった。

 アップルもナノもお金に困っているのだ。

 アップルの武器、ナノの神聖魔法のための元手。あと借金。

 その他冒険者活動に必要な道具。


 そんな理由から思わず出た言葉への返答は。


「全体で金貨十枚までなら出せよう」

「出しすぎでは?」


 というものだった。

 はっきり言って望外な額ある。

 一年人ひとり雇える程度の額。

 とはいえ、冒険者を雇うには少ない額でもある。

 しかしそれだけあれば、アップルとナノの武装をそろえたうえで四人分の冒険に必要な道具を揃えられる。

 というか服高い。




 結論を言えば、アップルとナノはお金に屈した。

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