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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
160/494

冒険者初心者とうさみ 22

 冒険者ギルドの扉が勢いよく開かれ、中にいた者が何事かとそちらを向くのと。

 一人の冒険者が、肩を貸す男と一緒に屋内に崩れるように倒れたのとは同時だった。


「大丈夫ですか!?」


 受付のマっちゃんがカウンターを飛び越えて駆け寄るのと、うさみさんが席を立って歩み寄り、氷の魔導師が卓を回り込んで、アップルはその後を追った。


 冒険者は血だらけで胸に大きな三本の大きな斬撃跡がある。金属の胸当てがザックリと裂かれていた。

 四肢は無事だが、見るからに重傷だ。


 そしてアップルは気づいた。

 ナノを連れていったパーティのリーダーだ。


 彼はマっちゃんによって介抱されながら息も絶え絶えに訴えた。


「虎狼の群れだ……二十はいた……取り残されてる仲間がいる」

「え、ナノは!?」


 リーダーが、思わず大声を出したアップルを見て目をそらす。

 その様子を見て、アップルは冒険者ギルドを飛び出……そうとして腰帯をつかまれて止められた。


「離して!」

「場所もわからないのに飛び出してどうするの。マっちゃん、とりあえす処置室へ」


 アップルを止めているのはうさみさんであった。

 体格差をものともせず、つかまれた腰はピクリとも動かない。


「わかりました。皆さん、虎狼の群れを前提に緊急依頼を出すかもしれません。動ける方は準備を! 門兵さん、足を持ってください」

「虎狼の毛皮はカネになるわよ! あたしも出るわ! 前衛いないかしら!?」

「おいおい氷の、地元モン差し置いて仕切ってんじゃねえぞ! 鋼の牙、出るぞ!」


 にわかに騒がしくなってきた。

 様子を見に集まってきていた冒険者を誘導していく氷の魔導師と地元の有力冒険者。 遠巻きに見守る見習いたち。

 その間を抜けて、リーダーを抱えてマっちゃんと門兵が奥の部屋へと向かう。

 それを追いぬいてうさみさんがアップルの腰帯をつかんだまま処置室と書かれた部屋へと入っていった。

 アップルは引きずられるように連れ込まれた。




 リーダーと門兵の話を総合すると。


 ナノを連れたパーティは、お試しということで慣れた狩場で何度も狩ったことのある魔物を狩りに行っていた。毛皮が近辺で防具の材料としてよく使われる草食の魔物だ。

 当然狩りはうまくいった。

 しかしそこに予定外の事態が発生する。


 虎狼の群れに囲まれたのである。


 虎狼というのは虎のような大きさと強さで狼のように群れて狩りをする大型肉食獣の魔物だ。

 本来その狩場にいるはずのない強力な魔物である。

 大型肉食獣が群れなければ(、、、、、、)狩りができない、そんな場所に住まう魔物。


 それが奇襲を仕掛けてきたのである。


 しかし、冒険者側も、上を目指すためにナノを加入させようというだけあって、十分以上の対応をした。

 包囲を突破できたのは彼らの能力だ。

 しかしその際にリーダーが負傷、ナノがこれを癒したが完治はできず、彼を守りながら全員で撤退……いや逃走を開始。


 その最中にナノがはぐれた。


 身体能力の差が出てしまったのだ。

 リーダーの負傷を込みでも、飛びぬけて能力が低かったことから連携が崩れ、一人置き去り状態になってしまった。


 そして各員負傷を負いつつもドイ・ナカノ街までどうにかたどり着き、他の仲間は門兵の詰め所で応急処置を受けているという。


 もちろん、ナノを除いて。


 そしてリーダーは状況を説明するために門兵の肩を借りながら冒険者ギルドまで足を運んだのだそうだ。

 狩場に不相応な危険な魔物が出現することを知らせないと他にも被害が出るからだ。


「他にも被害って……!」


 まるでナノがもう死んでいるみたいに。

 アップルは憤慨した。


 とはいえ、常識的に考えればすでに命を落としているだろう。

 でも、どうにかして生き延びていているかもしれない。


 アップルはギルドを跳び出そうとしてまた止められた。


「待ちなさい。ナノはまだ生きてるから。逃げ遅れたのはナノだけだね?」

「あ、ああ」


 リーダーが戸惑う。

 うさみさんが、はっきりと断言したからだ。

 遠く離れた場所でどうしてそんなことが言えるのか。


「話のおかげで居場所はつかめた。一緒に誰かいるわけじゃないなら構わないね」


 うさみさんはそういうと、部屋の隅の箱から、両手いっぱいの金貨をとりだした。


「神様、あなたの信者をここに連れてきてください。【レスキュー】」


 うさみさんが祈りの言葉を口にすると、空の寝台の一つが強い光を放った。


 そして光が収まった場所には。


「ナノ!……!?」


 血と泥にまみれたの人間がいた。

 腕が一本ない。

 足も片方膝から下を失っていた。

 喉からは小さくうめき声が漏れていた。


「虎狼は獲物をいたぶって遊ぶからね。猫みたいに」


 そんなひどい魔物がいるのか。

 いやだからこそ今まで生きていたとも考えられる。

 すぐにとどめを刺されていたら……だがこれほどの大けがを負ってしまっては、生きていたとしても。


 アップルは涙を流した。

 自分が止めていればと後悔した。

 そして今、何もできない無力さを痛感した。


「ナノぉ……」


「神様、お金を払うので癒しの神様の力を借りてきてください。リザレクション」

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