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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
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冒険者初心者とうさみ 21

「ここのギルドは新人の扱いが異常にいいわよね」


 氷の魔導師が、じっくり煮込んだクリームシチューを口に運びながらそう言った。


「伯爵がお金出してるんだよ。貧民救済に熱心だからね」


 金銭神の神官が、鳥肉をナイフで刻みながら答える。


「なんで貴族様が?」

「このドイ・ナカノ街は物流の要所じゃない? ここを通る商人が落とすお金が財政のかなめ。商人は治安が悪いところを通るのを嫌う。治安が悪化する要因を何代もかけて排除していったのがこの街なんだ」


 金銭神の神官、うさみさんが話しながら、アップルの美味しくないいつものやつの皿に鳥肉をひと切れふた切れと移していく


「ありがとございまッ」


 礼を言うアップルにいいよいいよと手で示す、うさみさん。


「街道の治安維持のために魔物や山賊を倒す冒険者ギルドに投資するのはわかるけど」

「盗賊になる前に、冒険者見習いとして確保しようって考えだね。食べていけない貧民を減らす政策の一環」


 命がけで非合法なことをする前に、同じ命がけでも合法な冒険者に手を出すことは確かにある。

 世の中に冒険者崩れの盗賊という存在が一定数いるのがその証明だ。


「他の街では冒険者がやらない仕事も冒険者の仕事として確保して、補助金と合わせて見習いの許容人数を増やす。そうすると、身を持ち崩す人も減る。見習いに最低限の教育を施せれば、できる仕事が増えて、戦力化できる。他所の新人より使えるようになってれば拠点移動してもやっていける。

 そして冒険者ギルドに行けば食っていけると噂が立つ」

「噂を聞いた喰い詰めた人が冒険者ギルドに集まって、か。それでも質が悪いのはいるでしょう?」

「よろしくない子を再教育したり排除したりする仕組みもあるらしいよ」

「うへえ」




 アップルは、二人に挟まれて夕食を食べていた。


 実力派の冒険者である氷の魔導師はアップルの魔法の先生で、この街で仲間と合流するために時間をつぶしているらしい。

 ぶっちゃけ暇なのだそうだ。

 最近うさみさんと仲がいい。


 アップルのほかにも講義を受けた見習いはいるのだが、うさみさんはアップルとつるんでいるナノのお師匠様であるので、他の見習いよりはアップルの方が距離が近い。

 近いと言っても微妙なところだが。

 うさみさんは二日に一回くらい誰かに食事をおごっており、その恩恵にあずかっていない見習いの方が少ないのだから。


 しかしわずかであれ、差があって。

 そして、ナノが今、お試し加入のパーティと出かけていて、アップルが微妙に浮いた立場だったこと。

 手持無沙汰に見えたのだろう。一応魔法の訓練をするつもりだったのだが、食事しながらできるものは、話をしながらでもできる。


 まあ一言にまとめると目についたから呼ばれたのだ。

 そして難しい話を始められた。

 話がせいじとかけいざいこうかとかになってくるとまるで分らない。

 あたしは何で呼ばれたんだと心の中で首を傾げていた。


 あ、鳥肉混ぜたら美味しくない奴がちょっとイイ感じになった。


「まあ大体のことはできるまでやればできるようになるから。二十年くらい一つのことに打ち込めば才能なくても三流くらいにはなるよね」

「人族は寿命短いからね? エルフの尺度で考えるのはどうかと思うわ……。それと、実戦経験を積ませる方が成長早いわよね」

「そうだね、魔物を殺すと体力、魔力だけじゃなく技術も高まるから」

「まあ、いきなりぶつけるより準備させてからの方が生存率は高いか……」


 実戦経験といえば、アップルは冒険者見習いになる前からあったし、なってからも一度、自分より大きな魔物と渡り合ったことがある。命までは取れなかったが。

 もしかすると自分が他の見習いより一回り強いのはそのせいかもしれない。

 そういえばいつかの髭爺も強かった。

 歳だけあって実戦経験があったのかも。


 などと、二人の話にはついていけないので、漏れ聞こえる言葉を拾って頭の中で考えていた。


 そうか、だったらナノが帰ってきたら一皮むけている、なんてこともありうるのか。 現状でも置いていかれている気がしているのに。


 アップルは匙をくわえて考え込んだ。


 癒しの魔法を求められているわけなので、冒険の間は無駄に魔力を使えないだろうから魔力の訓練は控えめだろう。

 お試しの人員、それも回復役を無理はさせないだろう。

 だからあまり実戦経験を積めない可能性も……。


 いや、この方向で考えるのはよくない。誰のためにもならない。

 どうせ考えるなら自分がもっと上へと飛躍するために役に立つことを考えるべき。


 とりあえず早く食べ終わって訓練でもしようか。



 と、食事を再開しようとした時である。



 夕刻以降は一応閉じられる冒険者ギルドの扉が勢いよく開かれた。

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