冒険者初心者とうさみ 16
「相棒ぉぉぉぉぉ」
実戦を経験した。
と言ってもアップルは村の自警団で実践を経験済みである。相手はウサギや狼だが。
問題はその実践の際に、アップルが相棒と呼んで大事にしているトゲ付きこん棒が破損してしまったことである。
丈夫な樫の木を削り出して作ったもので、弱い魔物なら骨ごと砕ける実績がある。
しかし今回当たった敵は甲羅鳥の群れだった。
羽の代わりに亀の甲羅のような固い表皮に覆われた飛べない鳥で、その大きさはアップルよりも二回り以上大きい。楕円形の胴体に長い首と足が生えているような外見だ。
甲羅で身を守りながら集団で平原を駆け回る迷惑な生き物である。
余談だが、外見で鳥と判断するのは難しいこの生物になぜ鳥とついているかというと神話に甲羅鳥が出てくるからだ。
さて、話を戻すが要するに、ピクニックの際にその甲羅鳥の群れに遭遇したのだ。
甲羅鳥は雑食で、肉も食べる。
当然のように襲われた。
人間よりも大きな魔物との戦いは見習いには荷が重い。
そのため、引率の先輩冒険者が応戦し、見習いは撤退するように指示をされたのだが、実戦経験がないものも混ざっていたためもたついた。
そこに先輩冒険者たちによる防衛線を抜けてきた個体が突っ込んだのである。
逃げ遅れた見習いに対し、ハンマーのような頭突きをくらわそうとする甲羅鳥。
そこをアップルが振り下ろされる頭の横っ面を、トゲ付きこん棒でぶん殴った。
その隙にナノが逃げ遅れを引きずって退避。
アップルと甲羅鳥が一対一でにらみ合うことになった。
殴って避けて殴って飛び乗って殴って飛び降りて、とアップルは奮戦。
敵主力を撃退した先輩冒険者が戻ってくるまで生き延びた。
そして、先輩冒険者の横槍で甲羅鳥が気をそらしたところに全力の一撃を叩き込んだのである。
その結果粉砕されたのはトゲ付きこん棒の方だった。
叩いたところが悪かったのかもしれない。
何度も甲羅を殴っていたせいですでにヒビでも入っていたのかもしれない。
なんであれ、粉砕したのは現実である。
その後すぐに先輩冒険者の手で甲羅鳥にはとどめが刺された。
結果として転んで怪我をした者が出たくらいで皆無事に生還し、大型の魔物を相手に力戦する姿を見せたアップルは見習いの中で一目置かれるようになった。
が。
それはそれとして、アップルは大事な相棒を失い、酒場で意気消沈しているのだ。
卓に顎を付けて人差し指で木目をぐりぐりといじっている。
いっそ飲んだくれたいところだがそのお金もなかった。
ナノはすでにかける言葉を使いつくして、困った顔で同卓している。
「どうしたのあんた」
「せ、先生ぇ」
そこに声をかけてきたのは氷の魔導師。
アップルを含む見習いに魔法の手ほどきをすることになっている冒険者である。
「情けない声出しちゃって。次の講義は明日だけど、属性は決めたの?」
氷の魔導師先生は許可もとらずに卓につくと、自身の食事を注文する。
話をする気満々で居座った。
ナノは接点がないし、講義を受けているアップルは横でダメになっており、ちょっと気まずかったので、アップルになんとかしろなのですと目を向ける。するとようやっと頭をあげるところだった。
「なるほどねえ、武器が壊れたと」
「そうなの。頑張って作ったのに。いやそれはいいんだけどこっちでいい感じの木を手に入れようとすると高くって手が出ない……」
「まあ鉄の武器よりは安いにしても確かにね」
村では自警団の力で武器を用意していた。
といっても、木こりから材料になる木をもらってきて、道具を借りて自分で削ったわけだけれど。
しかし武器に向く木材、それもアップルが求める太くてでかいものは、街で手に入れようとすると高かった。
金貨とまでは言わないが。
太いという部分が問題で、年を重ねた木でなければ条件を満たせないのだ。
「自分で切りに行くのはだめだっていうし、そもそも道具がないし」
周辺の森などは領主様のもので無断で木を切るのは禁じられている。
許可をとるにはお金がかかる。一本切るためだけにとるなら狩った方が安い。
また、最低でも斧か鉈くらい必要になるが、金属製の道具は普通に高い。
ごく普通の鉄の剣が一本金貨一枚程度する。
量産品はおおむね使われている金属の量で価格が決まるので大体予想がつくだろう。
アップルがグチグチと愚痴っていたら、氷の魔導師先生が言った。
「そういうことなら地か氷の魔法で武器を作れるようになったらいいんじゃない?」