冒険者初心者とうさみ 15
ピクニックに続いてキャンプという雑用仕事がある。
ピクニックは日帰りだが、キャンプは野営を挟む。
街道沿いに大勢で歩いて危険がないかを確認しつつ、見習いに経験を積ませるのだ。
例えば、どういった場所が野営に向いているかとか。
明るいうちから準備を始めないと間に合わないとか。
道の真ん中で野営をしようと思ったら夜行馬車や早馬に踏まれて死ぬとか。
そういった人によっては常識、でも知らないと困ることを実地で教えるのが目的の一つである。
冒険者見習いとはいえ、旅をした経験などない者は多いのだ。
さらに街道の点検と見回りを兼ねており、ドイ・ナカノ街の交通の要所としての価値を維持している重要な仕事である。
「ってボスが言ってたわ」
「街の役に立っているのならいいことなのです。景気が安定している方が寄付が増えるなのです」
街の孤児院に弟妹――血は繋がっていないが――がいるナノがアップルの話を聞いて頷いた。
今回はそれぞれ別の仕事に回っていた。
ナノが受けたい講義があったからである。二日拘束されると受けられなかったのだ。
初回の時はともかく、今では事前に引率担当と雑用仕事の内容を調べられるようになっているため、ある程度仕事を選べる。あまり一つに集まると別に振り分けられるので絶対ではないが。
アップルは新しい仕事で魔法の属性を選ぶ材料にしようと思っていたのと、次の魔法の講義の日程の兼ね合いからここでキャンプを受けておきたかった。
そんな思惑があっての別行動である。
「それで思ったんだけど、荷物かついでの移動、ナノだとまだつらいんじゃないかなって」
「むむ、なのです」
キャンプの仕事は一般的な野営道具をギルドから貸し出してもらえることになっていた。
使ってみてよかったら購入の手配までしてくれるという。
そしてもちろん運ぶのは見習いだ。
実際に運んでみるのも使ってみるの範疇である。
「テントと鍋、薪は現地で拾うけど、木がなかったらもっていかなきゃだし。それから水ね」
「荷物を持って歩く練習をしないといけないかなあなのです……」
体力については農村育ちのアップルの方がだいぶ上であることは共通認識だ。
器用さではナノが勝るのだが。
「それより魔法はどうなのです?」
ナノが被りを振って話を変える。すぐに解決する問題ではないので先送りである。
「水を運ばなくてもいいのはずいぶん違うかもって思ったわ。それと、火をすぐにつけられるなら、とも。でもあったら便利みたいな感じかな」
魔法で水を出すことができれば荷物を随分減らすことができるだろう。
体力を温存できると考えても、その分で別のものを持てると考えても有益だ。
火を起こすのも結構な労力なので魔法でつけられたら便利である。
家があるなら竈で火種を維持しているが、野営ではそういうわけにはいかない。
他にあえて言うなら光だろうか。夜とか便利そう。
闇とか風はアップルにはちょっと思いつかない。涼しいとか……?
そして地属性。地属性か。
「こっちは地属性があったら便利そうなことがあったなのです」
「地属性!?」
「え、なんでおどろいてるなのです?」
なんというかいまいち実感がわかない得意属性である地属性。
これをうまく使えそうな状況とは一体。
アップルはごくりと唾を飲み込んだ。
「薬草採りなのです」
「薬草採り?」
葉っぱをむしってくればいいのでは。
「根っこが必要な薬草があったなのです。手で掘ろうとすると硬いし、上手くしないとちぎれちゃうなのです。穴掘りの道具を持ち歩くのも……冒険者? なのです?」
「へえ、根っこかあ」
アップルは村の薬師のおばばのことを思い出した。
そういえば根っこを干してあるのを見たことがあるような気がする。
風邪の時など弱っているときに苦い薬を飲まされるし、よく怒るので苦手だったのだが。
もっと話を聞いて薬草のことを知っておけば役に立ったかもしれない。
「薬草も種類が多くて、必要な部分がいろいろ違って覚えるのが大変だったなのです。というか一度では覚えられなかったので何度か行って覚えたいなのです」
花が必要なのか実か根か葉っぱか茎か。ちぎってもいいのか全体を持って帰るのかなど複雑らしい。その都度教えてくれればいいと思うのだが、それだけだと間違える冒険者が多かったとか。
いろいろなパターンがあるということだけでも認識させておきたいというのが冒険者ギルドの意向なのだと、引率の先輩冒険者が言っていたらしい。
間違った部分を持って帰ってもお金は出ないと言われれば頑張って覚えると思うのだけれども、そうでもなかったようだ。
「確かに野菜でも食べるところはいろいろあるし、薬草もそうなのね」
自身の経験に照らし合わせて納得するアップル。
だが。
「それでなんで地の魔法?」
「だから、根っこがちぎれるなのです。周りの土の方を動かせれば」
「あー」
なるほどそれなら手も汚れないし薬草を痛めることもない――。
「――って、それはコツをつかめばそんなに難しくはないと思うわよ」
「え、そうなのです?」
草を根っこから抜くというのは農村の娘としては基本技術である。
そりゃ畑と違って固い地面に生えているならいくらかかっては違うだろうけれども。
「あ、だから地属性が得意な属性なんじゃないなのです」
「え、そ、そうなのかな」
土の扱いになれているから魔法も地属性が得意になる。
わからなくもない理屈である。
いやでも魔法だよ? 関係あるのかな。
ナノがそうに違いないなのですとドヤ顔をしている間、アップルは首を傾げるのだった。