冒険者初心者とうさみ 12
「私は金銭神様の神官になるなのです!」
「やめた方がいいよ」
「ええっ!? なのです!?」
ナノが金貨の使い道を決めた。
そして直後に否定された。
降って沸いたあぶく銭である金貨。
この使い道をアップルとナノは考えていた。
金貨一枚あればまともな武器が買える。
あるいは、冒険用の道具をそろえるか。
はたまた、防具……は武器より高い。それでも初心者向けの物はなら手が届く。
毎日昼食をとりながら講義と訓練漬けになる。
仕送りする。
パーッと使う。
などいくつかも候補はあり、アップルはいまだに迷っているのだが、ナノが先に使い道を決めたのである。
そこにうさみ神官様が現れ否定したのだ。
「なぜですか神官様! なのです?」
「お金ないと魔法使えないからだよ。最低でも銀貨を稼げないと、神聖魔法の練習もできないもの」
金銭神様の神官になるには金貨一枚を捧げればよい。
それで神聖魔法を授けてもらえるのだ。
ただ、金銭神様の場合、お金がかかるのはそれだけではなく、神聖魔法を使う際にも捧げる必要がある。
それも最低でも銀貨をだ。
神様が人間に授けたお金は金貨と銀貨だったという。
銅貨は少額取引の際不便だったので人間が作ったのだ。これを受けて金銭神様は「いいぞもっとやれ」とおっしゃったそうな。
ともあれ、神様への捧げものの代替として生まれたお金は、最低単位が銀貨なのである。
「神様からもらえるお金を生活費に回して働いて手に入るお金で魔法を使うなのです」「浄財洗浄か、発想はいいね」
「常在戦場?」
横で聞いていたアップルはそんなのアリなの同じ事じゃないのと思っていたが、神官様が褒めているところを見るとアリらしい。
常在戦場がどう関係しているのかはわからないが。
「ただね、はじめは十何日かに一回で銀貨一枚とかしかもらえないんだよ」
「えっ、毎日じゃないなのです?」
「毎日になるのは通算奉納額が金貨四百枚くらいからかな。それまでは奉納額に比例して頻度も上がるんだ。もらえる額と同額を納め続けたら二年くらいで二、三日に一回もらえる感じだったかなあ」
「二年、なのです?」
二年冒険者見習いを続けるのはないと思う。まじめにがんばればもうちょっと出世しているのではないかと。
いやどうだろう。貯蓄ペースと予定外の出費を考えたら……ううん。
逆に考えてみよう。
十数日に一度ということは、月に二回くらい銀貨がもらえる。ええと、一年ちょっとで元が取れる計算だ。
アップルは最近、計算の講義も受けるようになった。
そのおかげで雨が続いて不安を覚えたり、金貨の使い方を慎重に検討するようになったのだが、それは置いといて。
その計算を駆使して考えた結果、二年目以降は丸得ということに気が付いた。
「あたしも神官になろうかな」
神様にもらった分を仕送りにするのはどうだろうかとアップルは考えた。
自分のことは自分で頑張る。
金貨なんか送っても村では使いどころはないだろうが、銀貨を月に二枚なら行商人のおじさんからなにかしら買えるだろう。
でも、うーん、少ないかな?
どうせなら長女としてもっと稼いでいい顔したい気もするけれど。
「えー、やめよって話をしているのになんで増えるの」
うさみ神官様が顔をしかめた。
「だって」
アップルは持論を説明する。お得なのだと。
「仕送りできる額はあんまり多くないけれど、余裕ができたら奉納して額を増やせばいいわよね」
「年金みたいな考え方をするねえ。でも、神官の仕事しなかったら神官位維持できないよ。安定した収入があれば片手間でできるけど、半年くらい何もしないと投資がパー」
パー。
アップルは計算した。
半年だと、ええっと、半分くらい損をする。
いや、半年に一度神官の仕事というのをすればいいのだから……神官の仕事って何だろう。
酒場で座っていることかな?
「どうせだったら神官になるよりお金出して魔法でも勉強した方がいいよ。月銀貨二枚だって死んだらもらえなくなるからね。
前にも話したけれど、金銭神様は嫌う人もいるから風当り強いしね。
それでも神官になろうってことになっても、魔法に慣れておくのは役に立つから」
「魔法」
「なのです?」
金銭神様の神官が嫌われているというのは、うさみ神官様の面白おかしい話の中にも出てきた。
必死で働いてる横で神様からお金もらって遊んでる奴らが嫌い。
神聖魔法を使う際にお布施を要求するのはどこの教団も同じだが、金銭神様の神官は神様に捧げる必要がある分高くなる。詳しいことを知らなければがめつい教団だと思うだろう。
そしてなんだかんだお金を持っている。偉い神官ほど神様からたくさんもらえるからである。お金持ってるからそれを使っていろんな所へ口を出すこともあり、それが気に入らないものもいる。
まあ大体お金持ちというのは妬まれるもののだ。
教義にたくさん稼いでたくさん使えとあるのもあって金遣いも荒い。
すると金銭神の神官であるというだけでお金持ちと思われかねない。
なりたての下級神官だと神聖魔法にお金がかかる分むしろ貧しいのだが。
そんなお金持ちの負の側面に足を突っ込むよりは普通に魔法でも覚えたらどうかと、うさみ神官様は提案したのである。
「魔法を教わるのは学院とかいかなきゃじゃないの?」
「それに素質がないと難しいんじゃないのなのです」
「別に制限されてるわけじゃないから教師さえ見つかれば習えるよ。あと難しいって言ったら神聖魔法も魔法だからね」
アップルとナノは顔を見合わせた。
「どっちも魔力を使うから、必要な訓練の半分以上は同じなんだ。知識も相互に役立てられるし。
今ならそこそこ有名な子がこの街に来てるから、ギルドを通せば魔法の講義要請できるんじゃないかな。何人か集めて金貨出せば基礎くらいは一通り教われると思うよ」
アップルは考えた。
訓練が同じ。相互に役立つ。
なるほど。
「じゃああたしが魔法教わって、ナノが神官になってお互い教え合うわ」
「じゃあ私が神官になってアップルが魔法を教わってお互い教え合うなのです」
二人の声が合わさった。
「あー」
うさみ神官様が口に手を当てて驚いていた。