表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
149/494

冒険者初心者とうさみ 11

 雨が上がって数日後のお昼時。

 アップルたちは酒場で昼食をとっていた。


 昼食は無料ではないのでお金を取られる。

 なので昼食をとると貯金の速度が遅くなる。

 村にいたころは一日二食だったのから、必要ないといえば必要ない。

 だから、お金を貯めることを優先した方がいいという考えもある。


 だが、一度昼食をとる習慣を付けてしまうと、なかなか我慢が効かなくなってしまった。

 きっかけはうさみ神官様がおごってくれたことである。

 食べた日と食べなかった日で、活動の効率が違った。

 〇〇一食分

 仕事や訓練で体を動かすのも、座学講義で頭を使うのも、昼食をとることで普段より集中できたのだ。その分手ごたえも感じるわけで。


 しかしその分お金がかかる。

 悩ましい問題だが。


「アップル、お昼食べるようになって胸が大きくなったなのです」

「そういうナノは背が伸びてない?」


 という副作用が発生したのだ。

 他にもガリガリだったのが少し筋肉がついてきたりとか。

 おかげで同じ仕事もより成果を出したり短時間でできるようになり、日々の疲れも少なくなった気がする。


 ともあれ、以前ちっぱいというあだ名を付けられかけて後にその意味を知ったアップルともともと背が小さいことを気にしていたナノは昼食をとるようになったのである。

 単に成長期が来ただけかもしれないが。


「成長期にしっかり食べないと、そりゃ大きくなれないよね」


 と、ちっちゃなつるんぺたんすとーん神官様がおっしゃったので、二人は頷き合ったのだ。食べようと。



 ともあれそういうわけで昼食をとっていたときである。



 冒険者ギルドの玄関は、日中は開け放たれている。

 その玄関から大きな音が飛び込んできたのだ。


 普段から聞こえる街の喧騒とは違う。

 人の悲鳴、破砕音と衝突音、動物の鳴き声、人の悲鳴。


 酒場にいた者たちのなかでその音を耳にしたものの多くが顔を見合わせる中、一人のちっちゃいのが真っ先に動き出した。


 うさみ神官様である。


 いつも椅子に座っていた彼女は以外にも機敏に動き金髪をなびかせてあっという間に玄関へとたどり着く。

 そして外を覗いて。


「手すきの人手伝って!」


 ギルド内へと声をかけると外へと飛び出した。


 その声を聞いて動き出した者の中にアップルとナノもいた。

 手伝ってと言われた以上手がいるのだろう。

 ご飯何度かおごってもらった借りを返す時だ。

 それにまたご飯おごってくれるかもしれないし。


 この冒険者ギルドの見習いの多くは神官様にごちそうになった経験がある。

 酒場にいた半数ほどが神官様の一声で動いたのだった。






  □■ □■ □■






 後日。

 アップルは懐に金貨を忍ばせ何食わぬ顔を装って、いつも通り酒場で美味しくないご飯を食べていた。



 冒険者ギルドの前の道で馬車の事故が発生。

 原因は突然馬車を引く馬が暴れ出したことによるもので、貴族の馬車が商人の馬車を巻き込んで衝突、横転、歩行者を含め多数の負傷者が出たのである。


 救助の初動が遅ければ死者も出ていた。

 そしてその初動が、冒険者ギルドの見習い及び正規冒険者を中心とした集団だったのである。

 さらに貴族の馬車に乗っていた子どもが、冒険者ギルドの嘱託職員であるエルフの神官によって一命をとりとめた。



 そんな事件があった後、救助に参加したものへ褒賞が与えられた。

 一人金貨一枚。


 アップルの懐にあるのはその金貨一枚なのである。

 金貨なんて初めて手にした。

 受付のマっちゃん教えてもらったことだが、ひと月みっちり働いた分と同じくらいの価値だという。

 逆に言えば一か月遊んで暮らせる額。見習いの中には実際にそうしようとしているものもいるらしい。

 なんだかこういう表現だと大した額ではないような気もしてくるが。

 今まで触ったこともないまとまったお金だ。

 小さな金貨一枚がそれだけの価値を持っている。


「アップルはビビりすぎなのです」


 なんてナノはしたり顔で言うが、アップルにはなんだかみんながこの金貨を狙っているような気がしてくるのだ。


「確かに私たちには金貨一枚は大金なのです。でも正規冒険者の先輩方はもっと稼いでいるなのです。神官様なんて、金貨を使って魔法を使っていたなのです」


 貴族の子どもを癒す時、金貨を受け取ってそのまま神様に捧げていたのを見た。

 そういえば戦闘訓練で足を潰してしまった時も金貨を使っていたような覚えがある。

 あれは借金になったと聞いたが、今回の褒賞で返したのだろうか。

 どうでもいいけど。


「そういえば、金銭神の神官様って貴族に嫌われてるのかな」


 ふと思い出して話題を変えた。うらやましそうな視線を感じたのだ。あの日動かなかった見習いである。やはり狙われている……。


「『チッ金銭神官か』って助けに来た相手にさあ」


 アップルはいつもの卓に座っているうさみ神官様をチラリと見た。

 目が合って手を振ってきたので振り返す。


「まあ、お金を取るからどうしてもがめつい印象はあるなのです。でも神様からいただいたお金は自分で魔法を使うときに使えないというのは初めて知ったなのです。それならお金をとるのも仕方がないなのです」


 金銭神の神官が毎日神様からもらえるお金はもらった本人は神聖魔法の捧げものにできないのだということを、今回の事件の折に知ることになった。

 神様にしても自分が与えたお金をそのまま捧げられても嬉しくないのかもしれない。

「気になるなら、うさみ神官様にお話を聞いてみるのがいいなのです」

「そだね」


 この後、アップルとナノは金銭神の神官苦労話あるあるを面白おかしく聞かされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ