冒険者初心者とうさみ 10
雨が二日続いた。
「お金、お金が……」
アップルは冒険者ギルドの酒場で頭を抱えていた。
雨の日は雑用仕事に制限がかかる。
見習いは雨具を持っていなければ雑用仕事への参加を禁止。
持っていても、二日続けての参加を禁止。
雨具というと、革か毛織のフード、あるいはフード付きマントが相場だ。
ほかに手に持って使う傘というものもあるが、これは富裕層向けのものである。
冒険者の間では防寒敷物その他の役割を兼ねるマントが妥当なものと見られているらしい。先輩が言っていた。
拠点を構えられるような実力がつかなければ安宿暮らし。持ち物の管理は自己責任であり預かってもらうにもお金がかかる。
そうなると稼げるようになるまでは荷物はすべて持ち歩くことが望ましく、であれば使いまわしがきくもので、武具で埋まる手を使わないものがよい。
ということだそうだ。
さてそれでは気になるお値段は、というとこれが高い。
上等な武器ほどではないが、銀貨数十枚からする。
いまのアップルの収入では手がない。何か月もせっせと働いて溜めないと買えないのである。
中古のぼろいやつなら買えなくもないが、それでも数週間分はする。雨の頻度を考えれば十分高い買い物である。月に一日二日余計に稼げるのと数週間分の稼ぎを使ってぼろい中古を買うのはどっちがいいか。
最大の問題は雑用仕事ができなければ宿代と食費がかかることだ。
見習いが雑用仕事に参加する限り免除される雑魚寝部屋の使用料と朝晩の美味しくない食事。
「なんで美味しい料理を作れるのにこんなにマズいのか」と尋ねた見習いがいた。
答えは「美味しく味付けしてたらお前らに毎日に出せないからだ」というものだったそうだ。
このことからわかるように、冒険者ギルドは見習いに屋根と食事を提供するための努力をしている。
そのため、同等のものをお金を払っても、相場からすれば最底辺に近い。
しかしそれでも、収入がない日に支出になってしまうのは痛い。
二日続くと今までコツコツ溜めてきた貯蓄に大打撃が入るのである。
そういうわけで、アップルは酒場で唸っているのであった。
周りの席にも同じ境遇の見習いがたむろしている。
酒場なのは他にいるところがないだけだ。
雑魚寝部屋は掃除のために追い出される。
雨の中出かけるのも億劫だしお金もない。
前日仕事に出ていた者も、ギルドの決まりで連続で働けないので二日目の今日は休みである。
なぜそんな決まりがあるのかと尋ねると、雨の日に無理して働いた結果、風邪をひいて動けなくなりわずかな貯蓄を使い果たしてなんやかんやあって死ぬ見習いが過去多くいたことで作られた決まりなのだと、受付のマっちゃんが言っていた。
確かに。
世話してくれる親兄弟もいないし食事が無料で出てくるわけでもない。
風邪に限らず病気にかかりでもしたらそれでお先は真っ暗だ。
お金があれば治療院にかかったり、神官様にまほうをかけてもらうこともできるだろうが。
お金。お金ー。お金かあ。
「早くもっと稼げるようにならないと」
「なのです?」
同席していたナノが、お金お金言っていたアップルが違う言葉を話したので首を傾げた。
言っていることはお金のことだから変わっていないのだが。
せっかくなので、アップルは考えていたことをナノに話す。
「確かにその通りなのです。毎日お金を出せる神官様でもない限り……あ、神官様だと病気も自分で治せるなのです。神官様無敵なのです」
「あー、そうね。神官様になれば困らないわね。お金を貯めないと。お金……」
金髪のちいさな神官様を見る。今日もいつもの席にいる。朝、雨を確認しようと早起きして様子を見に来た時にはすでにいた。
朝飯時にも美味しそうな料理を食べていた。
今は足をぷらぷらさせながら、ぼーっとしているように見える。
暇そうだがアップルたちと違い、お金お金とうめいていない。金銭神様の神官様なのに。
そういえば首から下げている金色。あれは特別な金貨らしい。聖印というやつだ。金銭神様の神官であることを表すものとして、金貨はまあ確かに相応しいのだろう。
金貨か。
結局のところお金に行きつく。
冒険者として上にを目指すにもお金は必要。
神官になるにも必要。
身一つで生きていくことのなんと世知辛いことか。
「仕事も講習も頑張って早く稼げるようになろう」
「タダなら今日も講習行くのになのです……」
雑用仕事をしていない日は講習も有料である。
アップルとナノはため息をつくのだった。