冒険者初心者とうさみ 8
報告。
冒険者ギルド内で見習いの足がミンチになるという事件が発生。
加害者は被害者同様冒険者見習い。
凶器は模擬戦用のこん棒。加害者の所有物と同程度の大きさ、重量の木製のもの。
事件の経緯。
冒険者ギルドの戦闘訓練を受講した両者、基礎体力訓練ののち、武器を使った模擬戦の準備の際に、こん棒を選んだ加害者に対し、被害者が口を挟んだことから言い争いになり、模擬戦で決着を付けようということになった。
この時点では講師はよくあることとして見守っていた。
被害者は木剣を、加害者はこん棒を持ち模擬戦を開始。
被害者が木剣で殴りかかったところを加害者がこん棒で木剣を打ち払い、被害者の体勢が崩れたところにこん棒による真上からの振り下ろしによる追撃、回避しきれず足を痛撃、ミンチとなる。
模擬戦中の事故として処理。
常駐神官に再生を依頼。被害者へ金貨一枚の貸付。
被害者は精神が安定しないため医務室へ一時隔離。
加害者は計画性、殺意はなく、反省の態度を見せているため放免。
講師および関係部署要員により再発防止を検討。導入の検討をされたし。
初参加者の能力の見極めを強化。
専門の人員を雇う。試験の実施。
鈍器・重量武器の模擬戦は初心者同士で組ませない。
対人では破壊力が高く手加減が難しい。
個人的因縁がある相手との模擬戦を禁止する。
内心まで踏み入って考慮することが現実的に可能か?
以上。
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「まさかあんな大事になるとは思わなかったわ」
「大変だったねなのです」
初めての戦闘訓練に参加したアップルは、夕食時に合流したナノにいきさつを話していた。
相棒(トゲ付きこん棒)を馬鹿にされたので言い争いになり、売り言葉に買い言葉で決闘じみたことになったのだ。
相手は予想以上に弱く、結果として足を潰してしまったのである。
剣を払っただけで体勢を崩したので思わず振りぬいてしまったのである。
体重も乗った会心の一撃だった。
あれをかわされていれば、逆にアップルが隙だらけだっただろう。
紙一重。
反省点の多い模擬戦だった。
「剣で斬られれば怪我、悪ければそれで死ぬんだから、もっと攻撃した後のことを考えないと」
「話を聞く限りアップルのこん棒の方がよっぽど危険なのです……」
村の自警団では誰も模擬戦をしてくれなかったので、今回が初めての対人戦である。
初めて人間を殴ってわかったのだが、人間は思ったよりも脆い。
手ごたえからすると、狼やウサギよりも脆いと感じられた。
アップルも人間である以上、強度は大差ないだろう。
ならば簡単に傷つき動けなくなる。
とはいえ、殴るときは思い切りぶん殴らないとダメージを与えられない。
刃物と違って当てればいいというものではないのだ。
力こそパワー。あと勢いとか。
そう考えるとこん棒は模擬戦向きの武器ではないのではないかと思えてくる。
全力でやらないと模擬戦の意味がないが、全力が当たると死ぬのでは。
もしかして武器を変えるべきなのだろうか。
でもそんなお金ないしな。
しかしそうか、人を殺しかけたのか。
お互い運がよかったといっていい。
アップルも殺したかったわけではない。
相棒が馬鹿にされたのでちょっと腹は立っていたが、見直してくれれば十分だった。 それが結果としてやりすぎてしまった。
……謝りに行った方がいいだろうか。でも発端は相棒を馬鹿にされたことだし。
アップルが考え込んだところで、ナノが尋ねる。
「そういえば神官様が魔法で癒したってどうだったなのです?」
「あれね。すごかったわ」
足を失った相手をうさみ神官様が癒したのである。
ギルドの職員から金貨を受け取っていた。
そして金貨が宙に浮いて消えたかと思うと、足が生えてきたのだ。
正直、食事をおごってもらいながら話をしても信じ切れていなかったのだが、アレを見せられると信じるしかない。
うさみ神官様はガチだ。
「あたしも神官になろうかな」
そうすれば、やりすぎてしまっても自分で解決できるのではないだろうか。
冒険者稼業でもきっと役に立つだろう。
「どうやってなのです?」
「それよ」
金貨一枚で足が生える。
足が生えるが金貨一枚。
金銭神様に金貨を捧げれば神聖魔法を授けられると言っていた。
金貨。金貨か。
「当分は無理かな」
「なのです」
他の神様だとどうなのだろうか。
そんなことを考えながらうさみ神官様の卓を見ると、アップルが足を潰した見習いとその連れらしい見習いが同卓していた。
アップルは話しかけに行くか考えたが、謝るべきかも結論が出ていないし、さっきの今でまた言い争いにでもなったら面倒なのでやめておいた。