冒険者初心者とうさみ 6
「昔々。人々は神様に捧げものをして加護をもらっていました。
捧げものは神様によって違います。
神様にふさわしいものをと、みんなで考え神様にも相談して決めたのです。
そしてあるとき。
ある神様への捧げものが、足りなくなりました。
いたずらの神様が隠してしまったのです。
捧げものがなければ神様から加護をもらえません。
どうしよう。みんなは困ってしまいました。
そこに現れたのが我らが金銭神様。
金銭神様はおカネを人々に与えて言いました。
『捧げものがないのならば、おカネで払うことを許します。他の神様にも話を通しておきますからおカネで払っていいですよ』と。
こうして、人間の世界におカネがもたらされました。
はじめは捧げものの代わりとして使われていました、
しかしある時みんなは気が付きます。
捧げものの代わりになるのなら、おカネは捧げものと同じ価値を持つのではないか。
せやな。
こうして、おカネと物を交換するようになりました。
おカネは腐らないし、小さくて軽いので持ち運ぶのにも補完するのにも便利です。
みんなは便利なものを与えてくれた金銭神様に感謝しました。
めでたしめでたし」
ある日、アップルは金髪の子どもが説教しているところに出くわした。
聞いていたのは正規冒険者のパーティである。
パーティというのは一緒に仕事をする冒険者集団のことだ。
街の外は危険が多い。
だから一人ではなく複数で行動する。
また、人には得意なことや苦手なことがある。
これを、集まることで補い合うのだ。
正規冒険者の試験はいろいろな能力が求められるらしい。
一人ですべてを満たすのは難しい。
そこで、パーティを組んで試験を受けることができる。
すると、パーティ全体ですべてを満たせば正規冒険者として認められるのだ。
もちろんパーティでの活動限定だが。
さて、そのパーティは二十代前半であろう男女で構成されていた。
アップルから見れば年齢も実力も大人の先輩である。
見習いの引率として見たことがある人が混じっている。
聞いた話だが、見習いの引率はギルド所属の冒険者の中でも実績があって信用されているものがする仕事なのだという。
その実績があって信用されている先輩が、金髪の子どもに頭を下げて、銀貨を木箱のなかに入れていた。
「『金銭神』『神聖魔法』『実費とお気持ち』『寄附歓迎』」
箱にかかれている(らしい)言葉を小さく口に出す。
「どうかしたなのです?」
「ナノがなのですって言ってたらインパクトばっちりで覚えてもらえるよ」と先輩に言われてなのですを実行し続けているナノが、足を止めたアップルを訝しげに見る。
「いや、お金出してたから」
正確にはすごい先輩がすごいように見えない子どもに頭を下げたうえでお金を出していた、この合わせ技で気になったのだ。
「ああ、寄附なのです。神官様に寄付をするのは、まあ人によっては当たり前のこと、なのです?」
なのです? と語尾を上げて疑問形で言われてもアップルは答えを持ち合わせていない。
寄附なんてできるほど持ち合わせはないし、村でも大地の神様のお祭りを年一回作物を納めるくらいで、現金を納めるところは見た覚えがない。
ナノも、孤児院出身らしいので、寄付は受ける側でしかも経営に携わっていないので関わりもなく、出す側の考えはよくわかっていないらしい。
寄附する余裕があるなら仕送りをしたい。
それに正規冒険者を目指すなら装備も整えなければならないし、余裕はあるとは言えない。
正規冒険者になれば寄附しようと思うほど稼げるということだろうか。
二人して首をかしげたあと、もう一度金髪の子どもを見ると、目が合った。
うげ、と出そうになる声をどうにか留める。
先日、逃げたので何となく気まずい。
なので今日も逃げようかと思ったら、ちょいちょいと手招きされた。
先輩が頭を下げるような相手である。
アップルは覚悟を決めて、そっと離れようとしていたナノの腕をつかんで一緒に金髪の子どものもとへと歩き出した。
この時、アップルとナノの心は通じ合っていた。
離すなのです。
いいや逃がさん友達でしょ。
それはそれこれはこれなのです。
通じ合って無言でやり取りしていた。
通じ合っているからといって逃げたり道連れにしたりしないわけではなかったが。