冒険者初心者とうさみ 4
「よぉしお疲れ。あとは反省会やってカウンターで報酬もらったらおしまいだ」
お昼の食事時までもう少しといった頃、アップルたちが冒険者ギルドへ戻ってくる。
そしてボスにうながされて酒場の隅にある卓についた。
金髪の子どもの隣の卓である。
さらに、おばちゃんいつもの、とボスが酒場の調理場の方へ声をかけ、あいよーと返答があってから、ボスは四人に向き直った。
「反省会はやらないでもいいが、やった方が生き残れる可能性が上がる……とギルドの調べで分かってるそうだ。だから見習いにはやらせることになってる」
髭爺が頷き、ニヤケ顔がニヤつき、ナノは知ってるとすました顔をしていた。
アップルはそうなんだーギルドってすごいなあと感心していた。
「とりあえず今回の仕事で思ったことを何でも言え。今日はそれだけでいい。最後にあたいが締めて終わりだ。はじめ」
はじめ、と言われても、とアップルは何を言えばいいのかと、他の三人の様子をうかがった。
するとナノが手を上げる。
「はい。アップル……こん棒ちゃんの草むしり力がすごかったなのです」
「それな。やたら早かったし」
「うむ、やはり経験者は手際がちがうの」
「あぇ?」
いきなり褒められてアップルは変な声が出た。
「いいいい、いやでも道具も手袋もないしそんな街に出てきても草むしりすることになるとは思わなかったから道具用意した方がいい? ……でもそんなお金ないわ」
言い訳をするかのように早口で喋るアップル。
「それよりも草を生やしたくない範囲を毎日歩いて踏み固めたほうがわざわざ抜かなくていいから楽だわ? 畑にするわけじゃなければだけど」
「こん棒わかったそこまででいいぞ」
アップルこん棒が勢いでペラり続けているとボスに止められた。
「こういう誰でもできる仕事は見習いのためにギルドが確保してるんだ」
「誰でもって言っても、髭爺は腰が痛くて早々に戦力外になったし他の二人も根っこ残ってたりあんまりうまくはなかったわよ」
「ほかにも街道の点検や荷物運び、ゴミ拾いに溝掃除なんかをやらされるからな。雑用仕事を卒業したけりゃ午後からやってる講習を受けて早く正規冒険者になるんだな」
アップルの反論をスルーして、ボスは今日からの新人に別の仕事の内容を教えて向上心を煽る。
スルーされた本人は話が変わったのでそれまで話していたことをすっぱり忘れ、冒険者ってもっと華々しかったり殺伐としているのかと思っていたが違うようだと感想を抱いていた。
その後、全員分の食事が来て、ボスがおごりだと言ったので皆の口が軽くなった。
ニヤケ顔の下ネタがひどいとか、髭爺が強かったとか、ナノの語尾が実はキャラ作りだったことが発覚したりとか、そんな話をした。
半分くらい雑談だったが咎める者はいなかった。
「よし、大体こんなものでいいだろ。さっきも言ったが、昼からギルド主催の講習がある。正規の冒険者になって稼ぎたいなら受けたらいい。朝にこうして雑用仕事をした見習いはタダで受けられるからな。今日は依頼票の読み方と戦闘訓練だ」
「ナノはどうするの?」
「私は依頼票の読み方にいくなのです。余った時間で読み書き教えてくれるなのです」
読み書き。
アップルには今まで関りがなかった言葉である。
「できたほうがいいの?」
「依頼票を読んでもらう相場は銅貨一枚以上なのです」
依頼票の代読でお金を稼いでいる見習いもいるという。
なるほど、それならタダで教えてもらっておいた方がいいのかもしれない。
アップルは懐の小銭(全財産)のことを思った。うん。
問題は覚えられるかどうかだが。まあタダならやってみてもいいかもしれない。
「俺には訊いてくれないの?」
「うん」
考えていたらニヤケ顔が話しかけてきたので適当にあしらっていたら、ボスが卓を叩いたので話をやめた。
「最後にスタンプについて教えておく」
ボスがベルトポーチからカードを三枚取り出した。
そしてナノ以外の三人に配る。
ナノの分は、と思って見ると、ナノも自分の懐から同じものを取り出した。
「いいか、仕事をしたり、講習を受けたりしたらこのスタンプカードにスタンプを押していく。枠が全部埋まったら正規登録の試験を受けられる。なくしたら一からだ。再交付にもカネがかかる。できるだけなくすなよ」
アップルは自分のカードとナノのカードを見比べた。
枠がたくさんあるのは同じだが、ナノのカードは三か所が埋まっている。
「試験については講習で聞け。自分の実力が十分だからすっ飛ばしたいって奴も講習で聞け。講習は雑用仕事なしだと銀貨一枚とられるから用意しとけ」
講習で聞けと言いながらボスがカードにスタンプを押していく。
アップルは一つ枠が埋まったスタンプカードを顔の前に持ってきて、しげしげと眺めた。
その様子をナノが見てニコニコしている。
自分も同じことをしたなあと思い出していたのだ。
「で、あとはカウンターに行って報酬もらってこい。講習に参加するなら一緒に伝えるんだぞ。以上だ」
それじゃあまたそのうちにな、とボスは去っていった。
見習い四人も席を立ち、カウンターへ向かうことになった。
別に示し合わせたわけではないが、目的地も同じだし、ということで一緒に動いたのだ。
途中、隣の金髪の子どもの卓が目に入ったが明らかに価格の違う料理が並んでいた。
なお今日の午前の報酬は銅貨一枚だった。