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使い魔?うさみのご主人様 7

 王立魔術学院の教程は余裕をもって作られている。


 朝礼に首席し、年度ごとに決められた単位を履修し、必修課題に合格すれば進級できる。

 進級できなければ退学。


 厳しいようだが、課題は三度まで挑戦できるし、そもそも中等部まではさほど難しくもないし、時間も十分ゆとりをもって設定されているので落第する者はあまりいない。

 中途退学で最も多い理由は経済的理由で、課題不履行による退学はすくないのだ。


 逆に言えば少数なり退学になったり、その一歩手前にいる者もいる。


 それはたとえばメルエールである。


 家庭の事情で中等部からの編入であり、それまで本格的に魔術に関わっていなかったことが原因だと本人は考えている。

 初等部教育に相当する部分がまるっとぬけており、その分を取り戻すために時間をとられ、現在進められている講義の予習復習も追いつかず、というか何をやっているのかわからない。


 周りに聞こうにも孤立しており、そうでなくてもあまりに初歩的なことを尋ねるのもはばかられる。

 実家からの支援は期待できない。


 手詰まり。


 といった状況で、ついに使い魔召喚儀式に失敗するという形で問題が表面化した。


 失敗そのものはうさみの提案によりごまかすことができるかもしれないのだが、根本的な問題が解決していない。

 基礎の不足。




「だからメルちゃん様勉強しよー」

「はい?」


 うさみを連れての登校初日が終わり、寮の部屋に戻ってきたところである。

 あのあとも朝の座学講義のあとお昼のお茶会に誘われたり、午後の実技が終わってワンワソオに絡まれそうになったところを同級生の女子たちが追い払ってくれたりと、今までにない出来事が重なり、精神的に疲れたのでひとやすみ、と思ったところである。


「今日は疲れたんだけど……ってだからあんたメルちゃん様はやめなさいって」

「メルちゃん様このままじゃ退学になるんじゃない?」

「うぐ」


 メルエールはうさみの頭をはたこうとしたが、言葉によって逆撃された。


 その可能性が否定できなかったからだ。


「今日一日見た限りだけど、メルちゃん様ってば先生の講義ほとんど理解できてなかったよね」


「う、あ、あんたに何がわかるのよ?」


 隣の席の子の使い魔と遊んでただけのうさみに言われたくはないと、メルエールは腹を立てた。

 しかし。


「紙と筆出してるのに全然記録してなかったし、わかってるから書かないのか、わからないから書けないのかくらい、そのときの顔見たらわかるよ」


「な……」


 想像していたよりも、うさみが自分を観察していたことに気づかされた。

 いつの間に。いや講義の間にか。

 言いがかりではない。

 大体その通り。


 誰でも講義を受けるだけで覚えられるわけではない。

 講義を受けながら覚書を作り、あとから復習するのである。


 しかし講義はそれまで習ったことを前提に行われるため、満足に理解できていなければどんどんおいていかれてしまう。

 そうなると何を覚書に書けばいいのかすらわからなくなってしまう。


「実技も怪しかったよね。あれは誰でも見ればわかるよ」


「ぐぬぬ」


 実技は実際に魔術を使う授業である。

 魔術を使うと魔力を消費するので、練習するにも限りがある。

 実技の授業では、目の前で見本を見せてもらえるので効率的に練習できる。

 教える側も魔力は無限ではないので、時間を決めて多数の前で見本となり、集中的に教授すのが効率的とされている。


 今日は【火球】という有名な攻撃魔術の実習だった。

 メルエールはかろうじて発動させることはできたのだが、すぐにぽひゅ、と気の抜けた音を出して消えてしまった。

 何度か試したがうまくいかず、そのうち発動すらしなくなった。

 そこで魔力切れと教師に判断され、それまで。


 周りの学生は赤く燃える球体を生み出して目標にぶつけていた。


 見ればわかる。その通りだ。


「そんなこといって、あんたなんか魔術使えないでしょうが……あ」


 かっとなったメルエール、思わず口から出てしまったのは、ひどい侮蔑の言葉だった。

 無反応だった魔測球。

 魔術が使えないというのは、魔術王国においては人に非ず。

 最下層民でも教育を施せば魔術を扱えるようになるとされているわけだから、それ以下というわけである。


 思わず出た言葉に、メルエールはしまった、と思う。


「まあでも使い魔でいる分には別にその、個性みたいな?」


 自分でもよくわからない弁解のようなことばが、ごにょごにょと口から出る。


 しかし、言われた方のうさみはよくわかっていないようだった。

 んん~? と首をかしげている。


 メルエールはほっと息をついた。

 ひどいことを言ってしまったのに、気にした様子がなかったからだ。

 しかし。


「よくわかんないけど使い魔にそんな気を使うものなの?」


 うさみの言葉でイラっと来た。


 こっちが気を使ってやったのに気を使ってしまったいつの間にか人扱いしてたいや言ってみれば共犯者だし使い魔のふりしてるだけで使い魔じゃないしでも煽ってきてないかなこれよかったとおもったらへいきなかおしやがってうんぬんかんぬん。


 いろんな感情がぶわっと吹き出し、ひっぱたこうと手を上げようとする。

 しかし、うさみはまた絶妙に届かないところにいた。

 ぐぬぬ。はあ。


 一息ついてかっとなった頭がすこしすっきりする。


 メルエールは叩くのをあきらめてうさみに歩み寄る。

 うさみは、どうしたのという顔でメルエールを見上げてくる。



 メルエールは、そっとうさみの頬に手をやって。



 つまんだ。


「あ、ぷにぷに」

にゃ()にをするー」


 特に意味はなかった。

 ぷにぷにした。

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