目からビーム初心者とうさみ 43
まあ見失ったものは置いといて。
「であれば、目からビームを外してもらえますか」
私は伏せて考え込んでいた顔を上げて、うさちゃんに頼む。
「いいの?」
「はい」
唯一無二の強力な能力を失うことになる。
しかし、私には不相応な力であるし、何かの拍子に暴発して大事なものを消滅させるかもしれず、また死ぬときは目が爆発して周囲を巻き込んで死ぬ可能性が高い。
そもそも一度も使いこなしたこともない。練習すらしていないのもあるが。
それならないほうがいい。
「できるだけ長生きして、うさちゃんと一緒に居られたらと思いまして」
「いや、だから老後の面倒は見ないって」
「死に別れるのが寂しいからと、会わなくなるのも、それはそれで寂しいじゃないですか。たまに会って遊んだりお話しするのはいいと思います」
うさちゃんが看取りたくないというのは結局のところ寂しいからだ、と思うのはうさちゃんが寂しがり屋だと私が思っているからだろう。
少ない記憶の中の乏しい人生経験からの判断だが、この点については確信を持っている。
仮に勘違いだとしても、私はそういうつもりで接する所存である。
私の名前、『目からビーム子』の目からビームは、闇を切り裂くきらめく光という意味をもつ。
別れを恐れるうさちゃんの闇を切り裂いてわずかな時間でもきらめく光となれれば、なんて大それたことを思うのだ。
この子どもにしか見えないエルフが過去に何を経験して思ってきたかはわからない。
しかし、あれだけ私の人生について考え、指摘してきたのに自分は引きこもって一人で過ごしているのである。
それはどうなの。
うさちゃんはすごい魔法使いで、天空の城なんて場所に住んでいて寂しがり屋のくせに独りぼっちである。
その能力を生かして世界に貢献せよとは言わないし思わない。
私も使いようによってはたくさんの人を助けられるかもしれない目からビームという力を手放そうとしているのだ。
だからそれは置いておいて。
私はうさちゃんと一生一緒に居てもよいという程度には好意を持っている。
お世話になったし、二年間見てきたのだ。私の記憶の始まりから数えればずっとと言ってもいい時間である。
だから、別れて暮らすとしても今後も仲良くしたい。うさちゃんがすごく有能でおこぼれにあずかりたいからではない。
仲のいい相手と一緒に居たいからだ。
うさちゃんもきっとそうだと思う。
だったら死んでもいないのに自分から疎遠になることはないし少しでもその時間を長くしようと思うのも当然ではないか。
別れるのはどうしようもなくなった時で充分だろう。
……あ。そういえば最初の友達のベリーとも二年会ってない。
あとで会いに行かないと。
そんな思いを込めてうさちゃんを見つめた。
「あー。うんまあ」
うさちゃんはあいまいなことを言って目をそらした。
ふふふ。勝った。
別に勝負でも何でもないのだが、何となく私はうれしくなった。
私がニヤニヤしているとうさちゃんがどこか焦ったような口ぶりで言った。
「まあ、そうれでいいならいいよ。じゃあ今晩にでも処置しちゃおう」
「今からではないのですね」
「今からは今日の分の畑の世話しないと」
「あ、はい」
うさちゃん目が真剣だった。
ともあれこうして、目からビーム初心者の私の話は終わる。
この後も私の人生は続く。
ベリーと再会したり牢屋に入れられたり魔王に会ったり記憶が戻ったり勘だと言いながらドヤ顔したりと、様々なことがあったが、すでに私は目からビームできないために題にそぐわないので割愛する。
ただ一つだけ言っておきたいのは、うさちゃんが結局私を看取ったことと、多分うさちゃんも天寿を全うしたということだ。
うん? ……二つだった。
私ってば相変わらず馬鹿であった。
「目からビーム初心者とうさみ」 おわり