目からビーム初心者とうさみ 42
「ダメ」
私は予想外の返答に驚いた。
一生うさちゃんに養ってもらおうとしたら断られた。
……あれ、なにもおかしくない。
なぜいけると思ったのか。おかしいのは私だった。
私ってばお馬鹿……!
私が顔を伏せたせいか、うさちゃんが焦ったように言葉を紡ぐ。
「えっとね、違うの。友達を看取りたくないだけでね」
「それはちょっと気が早すぎませんか」
記憶はないが私はまだまだ若い。
看取るだなんて話をするのはちょっと早すぎないだろうか。
「でも人間ってがんばっても百くらいで死ぬし」
「む」
そうだ、うさちゃんはエルフ。
エルフといえば千年生きるという種族であった。
一方私、人族は五十生きればまあ普通でごくまれに百を超えるようなのが出る程度。
そう考えれば、私が感じる時間と、うさちゃんが感じる時間は違うのかもしれない。
そう、単純に十倍、ないし二十倍の違いがあることを考えれば私たち人間の一生など五年から十年ほどのもの。
私の年齢を考えて差し引けば、長く見て残り四年から九年に相当すると考えれば。
……やはりだいぶ先のことではないだろうか。
「あのね。年取ってから面倒見てもらおうと思ったら身内かお金がいるでしょ。
メカちゃんは身内がいないから、結婚するか自力で稼いで貯金しないといけない。
どっちにしても身元がしっかりしてないとめぐりあわせもたくさん稼ぐことも難しいんだよ。
で、メカちゃんは身元がしっかりしていない。じゃあどうするかって言えば、しっかりしたところで働いて実績をつくって後ろ盾になってもらわないといけないわけ。
そのために就職しようと思うと、もう年齢的には遅いくらいだから、気が早いってことは全然ないんだよ」
なんだか世知辛い話になってきた。
一つ一つはもっともだ。
何の利もなく、無関係な年寄りの面倒を見たがるものはいないだろう。
関係者になるか、お金で解決するか。その通りだろう。
そしてそのためには稼げる職に就くか、いい相手を見つけるか。
そのためには社会的信用が必要で、一から積み上げるためには時間はいくらあっても足りない。
今の私の社会的立場は住所不定無職なのだから。
「わかりました。確かに、その通りです。ですがそうすると……」
いつ暴発するかわからない目からビームは邪魔である。
目立つし、威力が高く危険だ。
あるいは、目からビームを武器にして、そう例えば強い魔物を退治するというのはどうだろう?
考えてみたが、早死にする予想しか思い浮かばなかった。
私は戦士ではない。
目からビームは欠点が多い。
使いこなせば強力この上ない威力を持っているのは確かである。
しかし、目からビーム中目が見えないのは致命的だし、最中、そして終わってしばらくは見えないどころか眩しさで痛い。
その間に襲われればひとたまりもないし、見えないというのは間違って味方に当たることも考えられる。
素人の私がこれだけ思いつくのだから、きっと他にも都合の悪い点はいくつもあるだろう。
こういった欠点を補って戦場で生き残る、そんな私を想像できなかった。
「……うん?」
そこまで考えて気が付いた。
目からビームに関して、否定的に考えていることに。
二年前は逆で否定的なことはあまり考えられなかった。精神制御の影響だとうさちゃんが言っていたが……。
「うさちゃん、精神制御とかいうものが……」
「あれ、言ってなかったっけ? ほっとくとメカちゃんが目からビームを撃つ機械になりそうだったから、ちょっとずつ解除進めてたんだ。変に影響が出にくいように時間をかけてだけど」
「聞いてません!?」
安全装置として水平より下に目からビームできないという部分は残したまま、他の影響部分を時間をかけて解除していったのだという。
いつの間にと問うと、寝てる間との答え。
ことわりを入れてほしかった。
私の心に関することである。それを勝手に変えられるというのは……だが、もともと不自然に捻じ曲げられていたものを治していたわけでもある。
私は言うべき言葉を見失った。




