目からビーム初心者とうさみ 37
「もう一つ部屋がありそう」
一通り調べたうさちゃんがそう言いながら部屋から出てきた。
危険なものは解除ないし隔離などの手段でうさちゃんが対処し、もらっていく荷物も運び出した後である。
「どういうことです?」
「どうも技術者の部屋って感じじゃないんだよね。書類とか。多分ここの領主の部屋なんじゃないかな」
なるほど、例の男がこの屋敷の持ち主ではなかった可能性があるわけだ。
食客か、部下か、あるいは上司かで、滞在していただけ。ないとは言い切れない。
だって覚えていないから。
「でしたら、目からビームで破壊した部分にあったのでしょうか」
「そうかもね。ただ他に可能性があるとすれば」
うさちゃんが一歩踏み出す。
「地下かな」
そう言って指を鳴らした。
何が起きるのか。私は固唾をのんで見守った。
「……」
「なかった」
「…………」
「そのジトーッとした目やめてー」
□■ □■ □■
「まあでも大体の感じはつかめたと思うから」
はじめの部屋に戻って発した最初の言葉がこれである。
すごい。ふわっとした単語しかない。
私はうさちゃんを見つめ続けた。
「と、とりあえず一回うちに帰ろうね。もうすぐ日も暮れるし」
うさちゃんがまた指を鳴らす。今度は何も起こらないなんてことはなかった。
積み上げていた荷物が、黒いもにょもにょとした何かに包まれて。
もにょもにょが消えたときには、何もなくなっていた。
「魔法?」
「魔法」
運んであげるといったものが消えたということは、今の一瞬で半日かけて運び積み上げた荷物をどこかに移動したということか。
「ですがさっき期待外れだったからと言って同じ演出で――え?」
私の周囲にも黒いもにょもにょしたものが現れた。
「ちょっとこれ大丈夫なんですか怖――」
もにょもにょはその密度を上げていき、ついに私の目の前が真っ黒になった。
「――いのです……が?」
そして突如もにょもにょが晴れる。
そこは今日の朝見た景色だった。
うさちゃん小屋の、私が借りた部屋だ。
ただ一つ違う点として、部屋の半分ほどを大量の荷物が占有していることがある。
「おお、これはすごいですね」
荷物はもちろん、村跡で運ぶために積み上げたあの荷物である。
こんなに簡単に移動させることができるとは。
やはり魔法ってすごい。私はそう思った。
「魔法すごいですね」
部屋の入り口から入ってきたうさちゃんにそう伝える。
「そう? えっへっへ」
するとうさちゃんの顔が崩れた。へにょんといったとこだろうか。ふにゃんかも。
「でもこんなに簡単に移動できるなら、往路やあの四人も簡単に助けられたのでは?」
「ま、まあね」
往路はまあ、多少の時間の問題であるし、置いておいても。
氷の剣と貴族の少年のことは別の問題だ。
無事に返してあげられるなら、その方がよかったろう。
私の友達もいたこともあり、気になった。
「でも頼まれなかったし」
「あれ、頼まれていませんでしたか?」
思い出してみる。
状況を打破する魔法は使えないかと言われていたような。
……あれ、それに対して返事をしてない?
というか向こうで話をしてあんまり口を出していない。
「確かに使ってくれとは言われてないですね。話の途中でウサギがきましたし」
「囮をやっただけでも結構手を貸したと思うんだけど」
それはそうだ。
ただそもそもそれは必要な労力だったのかと考えると。
「というか、あのウサギはうさちゃんが誘導してきたのではないのですか?」
ちょうどいいところでやってきたこと。
うさちゃんがこの天空の城でウサギと同居していること。
ここのウサギたちが私の言葉を理解していたように見えたこと。
だったらほかでも、と半信半疑で尋ねたのだが。
「昨日レベル上げのチャンスだぞって煽っただけだよ」
半分程度当たっていた。
しかし。
「誤解があるようだけど、私はメカちゃんに興味があるから、ちょっと手を貸しているだけで、無私の人とか誰でも助けるお人好しとかじゃないんだよ」
「ええ、そうですか?」
串焼きをごちそうしてくれたり、ご飯を楽しそうに勧めてくれたり、夕飯を断ったら寂しそうにしたりという姿を見ていると、いい子のように思える。
食べ物のことばかりだが。
ほかにも、囮にもなる必要はなかったはずである。
はじめから放置してこっそり調べものをすればよかった。ウサギが来るのはわかっていたようだし、ウサギとは意思疎通できるのであればわざわざ地上へ降りる必要はなかっただろう。
そして、ベリーの「どこにでもいるエルフ」に対する反応だ。
うさちゃんの主張通りなら、好意的な噂になっているのがまずおかしなことになるだろう。
神出鬼没の謎の人物だなんて怪しい存在が好意的にみられているという時点でうさちゃんの日ごろの行いが想像できる。
私はうさちゃんに近づいて抱き上げた。
「ちょ、なに?」
「うさちゃんは優しい人だって私は思います」
「えー」
うさちゃんを抱き上げている私はその場でくるくる回った。
特に意味はないが、何かがしたかったのだ。
そしてなにも思いつかなかったのでとりあえず回ったのである。
そのうちくるくるがぐるんぐるんになってギュインギュインした。
しばらくの間、黙ってされるがままになっていたうさちゃんが、
「メカちゃんさあ、汗のにおいするからお風呂入ってきたら?」
と言ったのでうさちゃんを抱く手を離したら、飛んで行って壁に立った。
「魔法?」
「技術かな」
そっかー。