目からビーム初心者とうさみ 36
探索と言っても屋敷一軒であり、一度調べた場所でもある。
何日も日が開いているわけでもないので忘れてもいないし、仮に忘れていても見れば思い出せる。
ひとまず、私が身に着けている服や鞄があった部屋へ向かった。
私が出てから特に変化はないようだ。
持ち出せなかった同じ意匠の服が十着以上あるのだ。
衣服は高価だ。質の良い布でしっかりした縫製の服がこれだけあれば、贅沢しなければ一二年分の生活費にできる。
もちろん、私の替えの服にしてもよい。
かさばるので持ち出せなかったけれど、うさちゃんが運んでくれるのなら、全部持ち出そう。
同じ服を持ち出して、うさちゃんが調べてる部屋の隅に積み上げていると、うさちゃんがこちらを見て首をかしげていた。
「それ全部同じ服なの?」
「そうですね。これしかなかったので」
「そ、そうなんだ」
それから肌着。
二日とは言え旅をして分かったが、肌着は多めにあった方がよい。
賢者の薬草様を包むためではない。
汗を吸った肌着が肌に張り付いて気持ち悪かったのだ。
大荷物をもって、何日かかるかわからない道を焦りながら歩いたせいかもしれない。
いつでも洗濯できるなら着替えればいいだけなのだが、荷物に限りがある旅の途上ではそういうわけにもいかなかった。
街に住むならあまり心配せずともかまわないだろうけれど、長雨でも続けばわからない。
というわけで肌着も全部もっていくとする。
肌着を積み上げていると、またうさちゃんがこちらを見ていた。
「それも全部同じ?」
「はい。肌着ですね」
「そ、そうなんだ」
うさちゃんの反応がよくわからない。
「どうかしました?」
「いやその、多分これ用意したの、例の男の人なんだろうなって思って……」
さらにもごもごと「同じのばっかりって……それに今調べてる男の人の個人的性癖とか知りたくないというか……」と言っているように聞こえた。
違うかもしれないけれど。
まあつまり、たいしたことではないようなので、探索に戻った。
そして一通り持ち出せそうなものをかき集めた。
私が持てないものや据え付け型のものまでは移動できなかったが、明かりや文鎮、装飾の施されていた椅子と机などを運び出した。
私の体より大きな机を運んできたときはうさちゃんが苦笑いしていたが。
そして最後に残ったのが。
「鍵のかかった部屋があるのですが」
「それ最初に言ってほしかった」
特に立派な扉のある部屋で、中に入れなかったのだ。
扉を破壊するかどうか最後まで悩んだのである。
どうせ屋敷が半壊しているのだから、扉も壊してもいいだろう。
ただ、どうやって壊すかという点で止まっていたのだ。
目からビームするのが簡単だろうが、それだと中にあるものまで目からビームされてしまうかもしれない。
そうするとせっかく扉を破壊しても無意味になってしまう。
というわけでうさちゃんに相談したのだった。
「魔法の罠が仕掛けてあるね。んー……バイパスして、開いた」
うさちゃんを連れてくるとあっさり解錠してくれた。
しかし魔法の罠とは?
「無断で入ろうとすると電気……雷の魔法でバリバリバリってなったあと、魔法の網が落ちて来て、そのまま弱電流で拘束されて動けなくなるみたい。あと壊そうとしても」
「ひぇ」
うさちゃんがこともなげに言いながら扉を開き、中へ踏み込んでいく。
壊さないでよかった。
うさちゃんが中で無事にきょろきょろしているのを見て私も部屋に入る。
「触ったら同じようになる罠があちこちにあるから気を付けて」
私は部屋を出る。
「あー、うん、それでもいいか」
うさちゃんがため息をついた。
私、罠、見分けつかない。仕方ない。
というわけで、入り口からうさちゃんを見守ることにした。
「お、日記っぽい。……封印が厳重だなぁ。無理に開くと中身が消えるのか。後回し」
「うわ……メカちゃん、白衣がいっぱいあるんだけど要る?」
「売れるようなら」
「りょうかーい」
「ぱんつは?」
「いりません」
「これも魔導具か。あんまり大したものじゃないけど……メカちゃん要る?」
「売れるようなら」
「りょうかーい」
「なんだろこの壺。飾ってあるけどただの壺だよねこれ。なんか場違いだけど……芸術品かな? メカちゃん要る?」
「売れるようなら」
「りょうかーい」
なんだか私が守銭奴か何かのようなやり取りに思えるかもしれないが、気のせいだ。