目からビーム初心者とうさみ 35
「あうあうあー」
私は目を回していた。
ニンジンを手に囮となったこと自体は、まだいい。
何度も死ぬかと思ったが、うさちゃんなら何とかするだろうという確信があった。
そもそも空を駆けることができるのだから、いつでも離脱できるのだ。
だから大丈夫。死ぬかと思ったけれど。
では何が悪かったのかというと、速度である。
あるものが移動するとき同じ速度でも、近くのものは早く、遠くのものはゆっくり動くように見える。
逆に自身が移動するときも、やはり近くの景色は早く、遠くの景色はゆっくりと変化していく。
さて、上空を移動するときに、すごーいはやーいと感じていた速度を地上で出すとどう感じるだろうか。
私の答えは、何が何だか分からなくなって目が回る、だった。
ウサギを引き付けるため、加減して引き離しすぎないよう、はぐれそうなウサギがいたら速度を緩めたり、突然向きを変えて直線距離を調整したり、足を止めてしばらくその場を動かずにしのいだりしたので、最大速度は空を行くのと比べるとずいぶん低かったことだろう。
あと追いつかれそうだったりギリギリでかわしたりして怖かった。
だがそれ以上に、目の前の景色が、地面が、すさまじい速度で流れていく。
その状況こそが最も怖かったのだ。
しかもいきなり止まったり向きが変わったりする。
それらの判断はすべて私ではなくうさちゃんだ。
次の瞬間自分がどうなっているのか予想できない。できても外される。
もう目を回すしかない。
結果としてウサギの集団を引き付けることには成功し、ベリーたち氷の剣とお貴族様は無事に逃げることができたと思う。
逃げた先で別の何かに襲われていないといいけれど。
そうして私たちは村跡まで戻ってきていた。
もう手にニンジンは持っていない。
「メカちゃんがニンジン手放したら離脱しようと思ってたんだけど、なかなか手放さないから」
「ええ……」
そんな。
それならばすぐに手放せばよかった。
いや、それだとベリーたちが逃げ切れなかったかもしれない。
こう、適当なところで手放せばよかった。
「それじゃそろそろ本題を進めよ。あっちにある屋敷跡でいいんだよね?」
私がへなへなと崩れ落ちていると、うさちゃんが半壊した、他の家とは明確に規模が違う建物を指して問うてくる。
「はい。あれが私のいたところです」
始まりの場所。
私は帰ってきた。
村のはずれ、木々に寄り添うように建っている。
建物より向う側は木も無事だ。
改めて見ると屋敷の壊れ方と周囲の被害の様子は連動していた。
私が背を向けていた側は無傷。
なるほど、私が目からビームした結果半壊したというのは確からしい。
ということは、この村の人は私が目からビームしたということだろう。
……やはり何の感慨もわかない。
精神制御とかなんとかうさちゃんは言っていたが。
それは、ここに来て調べればわかるものなのだろうか。
「ここが中心地かな」
屋敷跡。
最初に私が寝ていた台は残っており、うさちゃんがそこまで迷わずに辿り着いた。
私も寝台まで行き、腰かける。
そして改めてあたりを見回した。
見通しが大変良い。
うん。
「手掛かりになりそうなものはありますか?」
「んー、まあちょっと調べてみるよ。あっちに書棚っぽいものとか机だったっぽいのとかあるし。あとその寝台も」
「え?」
うさちゃんがそう言って示すのを見て、私は自分が座っている寝台を見た。
「魔法的に手が加わってる」
「ええっ!?」
私は飛びのいた。
魔法となれば何が起きるかわからない。
「ちょっと時間かかるかもだから……んー、建物の残ってるところに書斎とかないか見てきてくれる? あとついでに何か売れそうなものとか使えそうなもの、集めて持っていこう。売れるとこまで運んであげる」
「わかりました」
うさちゃんの指示に従うことにした。
魔法については私は素人であるし、調べる手伝いをするにも全く見当がつかない。
邪魔にならないようにするのが精々だろう。
ならばうさちゃんの厚意に乗っておこうというわけだ。
お金は結構持っているが、増えて困るものでもない。重いくらいだ。
着替えもまだ何着もあったし回収してくるとしよう。
こうして私は元屋敷の二度目の探索をはじめたのだ。