使い魔?うさみのご主人様 6
魔測球。
黒い球体である。
魔術を使う際には魔力と呼ばれる力を消費するわけだが、各個人がどのくらいの魔力を保有しているかというのは感覚でしかわからない。
そこで発明されたのが魔測球である。
この道具は触れた者の保有魔力量に比例して強い光を放つ。
さらにはその光の色で得意な魔術の属性まで判別できる。
これにより個人の魔術の素養を客観的に計ることができるようになった。
魔力は魔術を使うと消耗し、時間とともに回復し、また魔術に熟練するにつれ成長するので、最大量となるであろう時間、つまり朝起きて、魔術を使う前に計測することで正しい素養を計測することができる。
「変化なし?」
「黒いままですね」
「闇属性の素養では?」
「いや。あれはあれで違う反応が出る。これは無反応であるから」
「では故障?」
「ふむ、いやこれこのように稼働している」
「ではつまりこのものは魔術の素養はなし、ということですな」
昨日。
召喚失敗をごまかすために、うさみが使い魔のふりをすることが決まってから、いくつかの作戦を考えてあった。
周りをどうやってごまかすかだ。
その中に、使い魔の能力である意思疎通や感覚共有と同等の効果を持つ魔術を覚えて必要な時に使うという案があった。
問題はメルエールが魔術に秀でていないので、どちらにしても時間がかかるだろうということで、頑張るという方針が定められたところでいったん保留となっていた。
しかし、その後メルエールは思いついたのだ。
うさみはエルフである。
エルフは魔術に秀でた種族であるはずである。
教えれば使えるようになるのでは?
不得手としている自分より才能があるかもしれない。
子どもなので物覚えも早そうな気がするし。
というわけで、教師に相談し魔測球を使わせてもらうことになったのだ。
使い魔エルフに興味津々な同級生もついてきた。
「使い魔に魔術を覚えさせる、ですか」
「はい。エルフは魔術の才を持つと習いました。皆様の使い魔もそれぞれの能力を生かしていらっしゃいますし、……エルフとは言え使い魔ですから」
メルエールは余所行きの口調で嘘をついた。使い魔じゃないですごめんなさい。
おじいちゃん先生は、まあそうですねいいでしょうと快く承諾してくれた。
本来敵性亜人種に魔術を教えるというのは言語道断の所業であろうが、使い魔なら従属から逃れることはできないわけで問題ないという判断だったのだろう。
使い魔だってのは嘘だけど。
そして魔測球を使ってみた結果が先の通りであった。
「ご、ごめんなさいね。魔術の素養が全くないなんて思わなかったのよ」
メルエールはなんだかいたたまれなくてうさみに謝った。
憐れみの混じった目つきであった。
ああ、精霊魔術も使えないってそういう。
と、納得も交じった目つきであった。
ちょっと、いや実はかなり期待していたのだけれど。
と、失望も交じった目つきであった。
主が使い魔に謝るとかめったに見られないことだが、その場の皆は見逃した。
魔術王国において魔術の素養がないというのは極めて大きな枷である。
貴族としてはやっていけないし、平民としても最低限魔力がないと不便することがある。
ともかく、王国民にとっては将来を閉ざされたも同然なのだ。
それが常識。魔力主義。
しかし、よく考えたらうさみは使い魔であった。
主がしっかりしていれば問題ない気がする。
「メルエール様、使い魔うさみちゃんを大事にしてあげてね」
「え、あ、はい」
同級生がメルエールを激励し始めた。
なんだこれ。
その一方で、うさみが他の使い魔、猫さんウサギさんなどなどに魔測球を触らせていた。犬を除く。
「ふむ? 風と闇を扱う魔梟種のはずが別の属性の素養も? まてよ、いやしかし」
うさみ以外が触ると光る魔測球。
それをみておじいちゃん先生がなにかに気づいたのかブツブツと独り言を始める。
なんだこれ。