目からビーム初心者とうさみ 34
「ブロッーク!」
うさちゃんが跳ね、跳びこんで来るウサギを弾き返す。
氷の壁の高さはは私の身長の倍ほどもある。
私のひざ下ほどの大きさなのにそれを飛び越えてくるウサギもすごいが、合わせて跳んで跳ね返しているうさちゃんもすごい。
「うさちゃん楽しそうですね?」
「うん、わりと」
ウサギはどちらかというと切り株に注意を向けており、氷の壁の内側に跳び込んでくる固体は少ない。
そのことについて尋ねてみると。
「ウサギは基本的には非好戦的で戦闘を避けるのよ。一部の種を除いて。だから、そもそもこうやって狩りみたいな真似をするのは珍しいの。
多分だけど、大発生した切り株にちょっかい出されて反撃してるのだと思うわ」
とベリー。
さすが冒険者。街の外の荒事の専門家である。
オワリエンドでは屋台で売られているくらいだ。きっと冒険者はうまいこと狩る方法を知っているのだろう。
そんな話をしていると。
「おい、これは脱出の機ではないのか?」
口をひらいて呆けていたライトゥが復活した。
「どうですかね。俺らに向かってくるウサギがいねぇんならそうなんですが。待つか、突破するか。
どっちにしても切り株よりは武器も通るしやりやすくはなる……なります」
「ウサギが歩く切り株を狩りつくしてくれるなら待った方がいいと思うわ。氷壁の効果時間ぎりぎりまで粘ってウサギをやり過ごす目はあると思う。こちらを狙ってきたとしても防壁があれば一発カマせます。逃げながらだと詠唱が」
私には戦いのことはよくわからないが、ライトゥはついて行っているようで、ふむ、とかなるほど、とかつぶやいている。
子どもなのに。
貴族というのは大変だ。
一方で私が他人事な態度でいるのはまさに他人事だからである。
この村があってきているのであり、何か問題があればうさちゃんと相談して対応すべきで、そのうさちゃんは跳んだり跳ねたりしている。楽しそうに。
だから大丈夫だろう。
仮に大丈夫でなくても私は目からビームくらいしか打てる手がないのであまり考えることはないと思うのである。
そうしているうちに氷の剣とライトゥの話し合いが終わった。
「決まった?」
跳び跳ねながら話を聞いていたらしいうさちゃんが声をかける。
「ああ……って、なんでウサギ持ち込んでいるんだ!?」
氷の壁越しに外の様子を見ていた私が振り向くと、うさちゃんがウサギを抱っこしていた。
そして、そのうさちゃんを囲むように四人が身を引いて警戒していた。
「特に理由はないよ」
ウサギが足をバタバタ動かすが、うさちゃんはまるで動じず逃げられない。
それを見て四人は警戒を解いたが代わりに頭に手を当てた。
「脱出する。ベリーの大技で道を開いて駆け抜けて、オワリエンドを目指す」
「わかったよ。でもそれなら私たちが囮してあげる。魔法は温存したらいいよ」
「何?」
私たち? ということは私もだろうか。私もだろう。
ちょっと怖いが、うさちゃんは空を走るし逃げる分には大丈夫、だと思う。きっと。
「私たち? ……大丈夫なの?」
「ええ、うさちゃんなら大丈夫です。空を走れますし」
ね、とうさちゃんを見ると、ウサギの額を指で揉んでいた。なにしてるの。
それを見たベリーは心配してくれたが、別案は出ず、その作戦で行くことになった。
捕らえられたウサギは外にポイと捨てられ、私はうさちゃんに背負われた。
そしてうさちゃんは氷の壁の上にひょいと跳び乗る。
切り株の数は少ないが、全くいないわけではない。
しかしウサギの数より少なくなっており、全滅は時間の問題に見える。
「じゃあ適当に逃げてね。メカちゃん、これ持って。ヤバいと思ったら捨ててね」
「それではまた……なんですかこれ」
うさちゃんが壁の中に声をかけて何かを渡してくる。
私がそれを受け取ると同時にうさちゃんが飛び降りた。
そして何かをばらまいた。
「野菜?」
私がうけとったのは葉っぱ付きのニンジンであった。
そしてうさちゃんは同じものをいくつか、遠くに投げてばらまいた。
一瞬にしてウサギの注意が集まる。
「ニンジンほしい子はついておいで」
うさちゃんがそう言って駆けだした。
ウサギがばらまいたニンジンに殺到するが、ウサギの数よりまるで少ない。
そして私が同じものを持っている。
ウサギが私たちを一斉に追いかけ始めた。
「うひゃあああああああああ!?」
思わず叫んでしまう私。
多勢に追いかけられる記憶はないが。正直言ってものすごい重圧である。
ウサギが跳ねる音で地鳴りがするのだ。
ウサギが。
みんな私が手に持っているニンジンを狙っているのだ。
そして私はうさちゃんにすべてを任せるしかできないのだ。
こわっ。
「ひいいいいいいいいい!」
私は叫んだ。叫んだ方が気がまぎれた。