目からビーム初心者とうさみ 33
「あ、そろそろきたかな」
うさちゃんがそう呟くと、みんなが一斉にこちらを見た。
声の主はうさちゃんなのだが、視線はうさちゃんを抱っこしているわたしの顔に向いている。なんで。
私は視線を避けるため、うさちゃんを腕と胸から開放しつつ、しゃがんでうさちゃんの後ろに隠れると同時に、目の高さを合わせ、尋ねた。
「なにが来たんです?」
「ウサギさん」
ウサギ?
私は首をひねった。
ウサギといえばうさちゃん(ウサギ)、もといウサ子。
ああ、違うな、もっと前。
オワリエンド上空でうさちゃんと話していた時、ウサギと切り株が戦っているのを見た。
「なるほど」
「どういうことだ?」
ライトゥが訝しげに問いかけてくる。
「つまりですね」
私が説明しようとしたのだが。
「あ、ウサギ」
つぶやいたベリーが指さす方向を、みんなが向いた。
氷の壁の向こう、蠢く歩く切り株たち、そのさらに向こう。
角の生えたウサギが、単独でぽつんと現れていた。
私たちが気付いたのとほぼ同時に、氷の壁を囲んでいた切り株たちが向きを変える。
ウサギの方へ。
ウサギはびくりと震えると、こちらに背を向けて逃げ出した。
すると切り株たちが、追いかけ始めるではないか。
「あー」
「おー」
「ぬう」
それを見た氷の剣の三人が何とも言えない声を出す。
まるで苦い思い出でも思い出したような。
ところでクラブが声を聞くのは珍しい。ぬう。
「おい、どういうことだ」
「坊ちゃん、見ていればわかります」
「う、うむ?」
ライトゥが黙らさせられている。
私もわからないので様子を見ることにした。
現在いるのは村跡の広場、その中心付近に氷の壁を張っている中に私たちがおり、囲むように切り株がいた。
広場の周りは建物跡であり、膝と腰の間くらいの高さまで残っている。
周囲の草木なども同様だ。もっとも、木は切り株となって動いているわけだけれど。 今思えば、その高さまでが目からビームの攻撃範囲なのだろう。
つまり、それより小さい大きさのものは建物跡やら茂みやらの陰に隠れることができるということだ。
なぜそんなことを述べたかというと。
ウサギを追いかけた切り株、約半数程度。
がさがさと根っこを動かし、思いのほか滑らかに動く。
その集団が、包囲を続ける者たちと別れ、間が開いた。
そのとき。
「ウサギさんは草食動物だから、植物に対して特効持てるんだよね」
「特攻?」
うさちゃんがつぶやくように言うのとほぼ同時。
そこらの建物跡や茂みの陰から多数のウサギが現れ、包囲から離れた切り株に襲い掛かったのである。
集団を斜め後ろから。
突き、斬り、蹴り、体当たりし。
頑丈そうな切り株たちが攻撃を受け宙を舞う。
「は?」
ライトゥが声を漏らした。
ウサギが奇襲を仕掛けた。それだけでも驚くべきことだが。
その効果が目を見張るほどだったのだ。
貫かれ、切り刻まれ、砕かれた。
ウサギの数は、最初のウサギを追った切り株よりも少ない。半数もいないだろう。
しかし、突如現れ襲い掛かり、切り株の集団を粉砕したのである。
そしてその勢いで最初のウサギに合流し、跳ね去っていった。
「……って、え? 行っちゃうのですか?」
「魔境周辺のウサギは囮を使って釣り出して奇襲を仕掛けて一撃離脱すンだ」
「冒険者なら引っ掛かったことがある人も多いわ。基本的にはそこまで好戦的な魔物じゃないんだけどね。自分たちを襲う者や知能の低い魔物をそうやって排除するの」
アーケンとベリーが開設する中、ライトゥが目をこすって二度見三度見していた。
「奇襲包囲に特効の複合で同じくらいの強さの植物系魔物ならだいたい死ぬ、みたいな」
うさちゃんの専門用語はよくわからないが、とにかくすごいことはわかった。
そうこうしていると別の方からガサガサと音がする。
壁の周りにいた切り株たちがそちらへ注意を向ける。
すると。
私たちを挟んで反対側からウサギさんが跳び出してきて、切り株たちを襲った。
さらに。
「あっ、ウサギが」
氷の壁に向かって大きく跳んだウサギを発見し、私が声をあげるのと、うさちゃんが私の横から動くのはどちらが早かったか。
ウサギは氷の壁を越えてこの中へ飛び込んでくる軌道に見えた。
「エビぞりすぱいく! なんちゃって」
対して、うさちゃんが跳ぶ。
そして空中で大きく反って……エルフってあんなに背中方向に曲がるものなのか……壁の上あたりでウサギとぶつかる、と思いきやその瞬間。
うさちゃんがウサギをはたいた。ぺいっと。
すると、ウサギは跳ね返されたように向うへ放物線を描く。
「まあそういうわけで、ウサギさんがこっち来てるのが見えたから教えてあげようと思って降りてきたんだよ。なんかバタバタしたけど」
着地したうさちゃんはそう述べた。
そうだったのか。私は気づいていなかなかったよ。