目からビーム初心者とうさみ 32
予約投稿をミスっていましたので遅ればせながら投稿しました。
ライトゥ・コレットというらしい。
お貴族様の令息だそうだ。
オワリエンドから自領へ帰還する際に歩く切り株の群れに遭遇、襲われていたところを救援にやってきた氷の剣を含む冒険者によって救出されたのはいいのだが。
撤退中に主力とはぐれ、氷の剣に護衛されてここまで逃げてきた。
そして疲労で動けなくなる前に氷の壁を防壁にして籠城したのだという。
「それは大変でしたね」
「大変でしたね、ではなかろうが。お前たちはどこから来たのだと。四方は壁と魔物に囲まれているのだぞ」
「上からですが」
上を指さして空を見上げる。
うちのうさちゃんはすごいのだ。
空中を走るし落ちても平気なのである。
「何、空を飛べるのか! 助かった! おい、空を飛んで俺をオワリエンドまで連れていけ! 父上たちと合流できれば褒美を取らすぞ!」
飛んでいたのではなく駆けてきたのだが……いやそれも飛んでいるうちに入るのだろうか。難しい判断だ。
「んー、別にいいけど、それだと一人しか運べないよ」
私が考え込んでいるとうさちゃんが答える。
おんぶで運べるのはまあ一人だろう。
ものすごく頑張ればもう何人かいけるかもしれないが、うさちゃんはちっちゃいのでおんぶにだっこに両手に下げるみたいなのはちょっと厳しそうである。絵的にも。
ライトゥはうさちゃんの言葉を聞いて、私とうさちゃんの顔を交互に見た。
「私おんぶされていただけなので。普通の人です」
「なんだと、ではこの小さいのが空を飛んできたと!?」
「さすがエルフ……!」
なぜかベリーが慄いていた。アーケンとクラブもこちらの様子が気になるようでちらちら見ている。
「身長あんまり変わらないでしょ」
「なんだと!?」
「まあまあライトゥ様。今は怒っている場合ではございませんですよ」
「ぬ、ぬう」
ベリーの言葉遣いがおかしいのはさておき。
「ううむ、このエルフに背負われるか……むむむ」
何やらまじめに悩んでいるライトゥ。
確かに自分よりちっちゃい子におんぶされるというのはなかなかに違和感があるものだ。
私はもう慣れたが。うさちゃん抱き心地がよくって……。
「どうするの? みんな置いて一人だけ先に逃げたいなら連れてったげるけど?」
「なっ」
「エルフちゃん!?」
うさちゃんが挑発的である。どうしたのだろう。
小さいと言われて怒ったのだろうか?
だったら今後気を付けよう。
私はうさちゃんを抱く腕に力を込めた。
うさちゃんが「胸を押し付けるのやめてよ」とつぶやいたような気がするが気のせいだろう。
「ごほん。臆病者のような言い様はやめてもらおう。それより、空を飛べるような題魔法使いというのなら、この状況を打破できる魔法を使えぬか。こちらの魔法使いはそろそろ出涸らしなのだ」
「坊ちゃんもうちょっと言い方をですね。まあその、魔力もきついんだけど、物質媒体の水晶が切れそうで。壁はどんなにがんばっても、もってあと半日くらいね」
魔法を使うときに適切な品を消費することで効果を高めることができるのだそうだ。
その品を物質媒体と呼び、氷の魔法を使うのに適しているものとして水晶があるのだという。なお高価なので切り札なのだとベリーが教えてくれた。
「それに剣もやばくてな。クラブの鎚も木にはそこまで効果的じゃねぇし」
「切り株は剣で斬りつけるものではないですね」
アーケンが愚痴っぽく口をはさむ。
素人意見だが、枝ならともかく切り株では剣でどうこうは厳しいように思う。
鉈、斧、縄、できれば畜力で引っ張って……いや歩くということは自前で移動するわけだから引っ張る必要はないのか。
氷の壁を挟んで見ると、根っこを足のように動かして移動している。
あの根っこを切るくらいなら剣でも? いや、それでもなかなに太いから、これだけたくさんを相手にしようとすると剣がもたないのかもしれない。
また、クラブのトゲトゲ鉄球がついた棒で殴るのは……どうなるのだろう。ちょっとわからない。
根っこで地面に固定されていない切り株であるなら吹っ飛ぶだろうか?
トゲトゲが刺さって抜けなくなるという可能性も。
想像したらちょっと面白かった。
笑い事ではないが。
「というわけで、こうしてたらどこかに行かないかと、あるいは救援が来ないかなってね」
「上から見た限り、ここに集まってたよ。ね?」
「そうですね。他の切り株があったところには全くと言っていいほど見受けられませんでした。森に入ったものもいるようですが、ここに集まる数は特異に感じましたね」
獲物に群がっているようだ、とまでは言わなかった。
うさちゃんが言うには、仲間を増やすらしいが、そういった行動をとらずここに集まっているということは、やはり狙いはこの四人なのだろうと思う。
「そうか。やはり、どこかで攻勢に出て突破するほかあるまい。そして、であれば早いほうがよかろう」
一番小さい子(うさちゃんを除く)が勇ましいことを言う。
すると氷の剣の三人も、一つ息をついて。
「だな。奴ら足の速さ自体はそれほどでもねぇです」
「あと一、二回は大技いけますですよ」
「……」
なぜか立ち上がる皆さん。
疲れた顔には、しかしやる気が見えている。
やるべきことは見えた、と言わんばかりの不敵な笑いを浮かべていた。
しかし私たちとしてはここを突破して逃げるというのは困る。
いや、彼らが逃げる分にはいいのだが、この村跡に用事があるのだ。
かといって、見捨てるのであれば初めから下りてきていない。
ですよね、うさちゃん?
「あ、そろそろきたかな」
うさちゃんがつぶやいた。