目からビーム初心者とうさみ 31
地上では、無数の切り株が氷の壁に阻まれている。
壁によって守られているのは氷の剣の三名とその他一名。
四方を見張りながらも座って体を休めている。
「どうしましょう」
目からビームによって切り株を一掃できないことが分かった以上、私には打つ手がない。
こうなるともう、うさちゃんを頼るほかないわけだが。
「とりあえず合流しようか」
うさちゃんはこともなげにそう言って、私たちは落下した。
「なにしてるの?」
「援軍が期待できない籠城だよ……って、え?」
音もなく着地したうさちゃんの問いかけに、疲れた声で返事をしたのは冒険者パーティ「氷の剣」の剣士アーケンだった。
他の三人も含め、疲労がたまっているようで、所作に鋭さがない。
こちらを見上げるアーケン。
目が合ったのは私。
「目からビーム子!?」
「あ、どうも」
驚くアーケン。私は片手をあげて挨拶した。
声をかけたのは私ではなくうさちゃんなのだが。
「え、目からビーム子ちゃん?」
次に、他所を向いていたベリーがこちらに振り返る。
目の下にくまができていた。
「はい、目からビーム子です」
「あんたなにしてるのこんなところで!?」
返事をしたら立ち上がって詰め寄ってきた。
随分な驚きようである。
こちらもうさちゃんではなく私を見ている。
まあお友達ですし。私の名前で振り向いたわけであり当然だけれども。
間に挟まれたうさちゃんがかわいそうになってきた。
「おんぶされてます」
「わたしが訊いてるのに……」
ついに不満を示した者がいた。
私の胸の下からだ。
もちろん、うさちゃんである。
私はうさちゃんから分離した。
地面についたのにいつまでも乗っているのも悪いし、重なっているせいで無視されているのもよくないだろう。
「えっ、るふ……どこにでもいるエルフ!?」
「だからなんなのそれ。そりゃあ、どこにでもいるようなエルフだけど」
「自分でそう名乗ってるからじゃないですか」
私に対して名乗ったときもどこにでもいるエルフ、の魔法使い、と言っていた。
こうやってうろちょろして私を拾ったようにあちこちで活動しているうちに広まったのではないだろうか。
これ結構鋭い推理ではないだろうか。
私ってばやはり天才の可能性があるな。
「いやいやいやいや! お前ら誰だよ! どうやってここに来たんだ!?」
私がひそかに自賛していると、知らない声が大きく響いた。
見ると、汚れてはいるが高そうな服を着た男の子がこちらをにらんでいた。
成人しているようには見えないが、うさちゃんよりは年上に見える。背とか。
……が、エルフのうさちゃんは当てにならないので、うん。
腰に下げた剣に手をかけて、警戒心むき出しだ。
「通りすがりのどこにでもいる目からビーム子です」
「メカちゃん!?」
うさちゃんが裏切られた人のような目で私を見る。
ちょっと真似しただけではないか。
「エルフのうさみですー」
あ、あれ?
うさちゃんが頬を膨らませていた。
拗ねた?
うさちゃん拗ねた?
うさちゃんが拗ねたらもう一度天空の城に行って今度こそ見学をする計画が……もとい、私のことを調べてもらえなくなる。
ところで拗ねる子どもはかわいらしい。
私は目を合わせてくれないうさちゃんを後ろから抱きしめた。ごめんて。
おんぶされていた時とほとんど変わらない格好だが、それは置いておいて。
膨らんだ頬をつつく。ぷにぷにであった。
「ねえ、さっきのメカちゃんって?」
「うさちゃんと呼ぶ代わりにメカちゃんと呼んでもいいよと」
「あたしもメカちゃんって呼んでもいい?」
「いいですよ。お友達! ですし。ベリーちゃん……べっちゃん?」
「あたしはベリーちゃんでいいわ……」
うさちゃんの頬をムニムニしながらベリーと話す。
さっきより少し元気になったように見える。
私が来て元気になったのなら、それはうれしいことだと思った。
「おいこら質問の答えが途中だろうが。俺を無視してなごんでるんじゃない! 危機的状況は変わってないんだぞ」
一方男の子がぷんすかしていた。