目からビーム初心者とうさみ 30
「あのあたりでしょうか」
高度を徐々に下げながら空を駆けるうさちゃんに背負われていると、森の中に開かれた場所が見えてきた。二度目か三度目の目からビーム跡だろう。
緑が途切れ、穴がたくさん開いている。
うさちゃん畑ほどではないが広大な区域がさっぱりと刈られており、これが目からビームによるものだと思うと、ちょっとすごくないですか。
それにしても。
「切り株地帯だったのですが……」
「歩く切り株が大発生したんでしょ?」
「歩いてどこかに行ったということですか」
ざっと見た限りでは切り株が歩いている姿は見受けられない。
森に入ったのだろう。そうであれば上空から見えないのは妥当なところだ。
あるいは昨日、冒険者の人やウサギと戦って一掃されてしまったのかもしれない。
「切り株がみんないなくなったなら開墾がはかどりそうですね」
「そうだねえ。でも周りの木も動き出しちゃうから」
「えっ」
ほらあれ、と指で示された方向を見ると、森の一部がゆっさゆっさと揺れている。
「歩く切り株は蠢く木とか歩く木とか、仲間を増やすんだよね。いい経験値稼ぎになるんだよ」
「経験値?」
レベルがある生き物を殺すとレベルが上がる。らしい。
レベルを上げるのに必要なのが経験値。らしい。
専門用語は難しい。
要するにやっつければ強くなるんだよ、ということらしい。
「まあでも今は関係ないから村に行こうか。……あっちかな?」
「村から少し下ったので、あれでしょう」
高所に居るのでビーム跡はよく見える。
ビーム跡は三か所。
村と、襲われてうさちゃんに会ったところと、寝る前だ。オワリエンドは見ればわかるのでここでは置いておく。
そのうち少しだけ盛り上がっているのが問題の村跡に違いあるまい。
私がえっちらおっちら歩いていたのがバカバカしくなる速さで辿り着いたその場所には無数の切り株が蠢いていた。
「あれ、こんなところに集まってる」
「向こうに何かあります……白、いえ、透けている? 氷、でしょうか」
ビーム跡の端の方……ああ、あれは屋敷の跡、ということは村の広場だろう場所。
氷らしき壁で四方を囲い、その中に数名の人間が。
「あ、あれはベリーさん?」
「知り合い?」
「お友達です」
よく見れば中にいたのは氷の剣の三名と、知らない小柄な人間が一名だ。
確か、道案内にいくようなことを言っていたと思ったが、なぜこんなところに。
いや。それより。
氷の壁で、集まっている切り株を防いでいるようだ。
背中を合わせて別の方向を向いている。突破されないように見張っているのか。
これは危地なのでは。
「うさちゃん」
「そうだねえ。メカちゃん、ビームで助けてみたら?」
すごい魔法使いのうさちゃんならベリーたちを助けられるのではないかと期待してみたのだが、うさちゃんは私にやれという。
正直、怖いというか、目からビーム中は目が見えないわけで、間違ってベリーを撃ってしまったりしないか心配だ。
「どこに飛ぶかわからないので……」
「見てる方に飛ぶんだと思うんだよね。だから」
うさちゃんは言いながらベリーたちの真上に移動する。
「これで斜めに後続の切り株に撃てば巻き込まれる心配はないと思うよ」
なるほど、私は真下が見えない。胸とうさちゃんによってふさがっているからだ。
これなら大丈夫かもしれない。
「そ、それでは。目からビーム!」
…………。
「…………」
「あれ?」
「どうしたの?」
目からビームが、出ない。
「えい。それ」
何度もやってみる。
出ない。
斜め下の蠢いている切り株たちの真ん中に目を向けて目からビームを出そうとするのだが、出ない。
「ええ……? 目からビーム。あ、出たまぶしっ」
何度やっても出ないので、正面を向いてぬんと気合を入れて出してみたら、ようやく出た。
相変わらず眩しい。
「正面に出しちゃ当たらないよ?」
うさちゃんが言うが、それはわかっている。これを斜め下に……?
下を向こうとしても、なぜか首が動かない。斜め下に撃とうとしていた時は大丈夫だったのだが。
「下を向けないです……? あれ?」
「うん? それ」
うさちゃんが体を傾けた。
「あがががががっが!? 首が痛い!?」
すると、私の首が勝手に上を向いてしまう。
無理な動きで筋が突っ張りものすごく痛い。
「おおう、ごめん」
「と、止まれ……なにか変な感じです」
目からビームを止めると、また下を見ることができるようになった。
下に向けて目からビームが打てない。
新発見だが……どうしようか、この状況。