目からビーム初心者とうさみ 28
外に出ると、太陽がまだぎりぎり昇っていない藍色から茜色、そして空色に変わりつつある見ごたえのある空が私を迎えてくれた。
それだけでなんだか気分が高揚してくる。
よし。
さあやってまいりました、天空の城散策。
小屋から出ると見えるのは……田園風景。
私はどちらかというとお城を見たいのだけれども。田園の向こうは森が見える。
ううん……。
なんだか一気に冷めてしまった。
気を取り直して見ていこう。
畑はきれいに区画分けされており、色とりどりの、見たことの無い野菜が区画ごとに栽培されている。
背の高いものや、地面に垂直に網を張って蔓を絡ませているものもあり、見通しはあまりよくない。
区画の間には用水路が流れている。
水量は十分にあり、その気になれば泳げそうなほどである。これはどこから流れてきているのだろう。
これだけ大きな建造物を浮かべているくらいだから、水を確保するくらいは簡単なのだろうか。
そして昨日も目に付いたことだが、ウサギがうろちょろしている。
いちにい、たくさん。
白、茶色、黒、角突き、牙付き、大中小。様々な種類のウサギが我が物顔で跳ねていた。
野菜にかぶりついているものや、野菜と格闘しているもの、頭の上にいくつもの野菜を浮かべて移動しているもの……。
「……んん?」
私は二度見した。
野菜が浮いている。
うさちゃんや天空の城を見た後であるからうっかり見過ごすところだった。
しかし、あのウサギの動きに合わせてついて行っている浮き野菜はなんだ。
ウサギの仕業としか思えない。
天空の城は昔のすごい人が作ったのだろうすごいなあ、でよろしい。納得できる。
ウサギ……ウサギだ。見た目かわいらしいが基本害獣と知識にあるウサギだ。
考えてみればうさちゃんも見るからにお子様である。
うさちゃんのような子どもやウサギまで魔法が使えるというのに私ときたら。
目からビームしか出ない。
私は少し落ち込んだ。
そしてすぐに立ち直った。
落ち込んでいてもどうにもならない。
とりあえずうさちゃんを探して天空の城見学をしたい。
しかし、あたりには野菜と小屋とウサギくらいしか見当たらない。
「うさちゃーん!」
声をかけてみるが、返事はなかった。
どうしたものか。
とりあえず、小屋の周りを一回りしてみることにした。
もしかしたら見えないところにいるかもしれない。
小屋の裏にはもう一つ別の小屋があり、入り口が開いていた。中をのぞくと、農具と、農具らしきものが置いてある。
動くものはいない。
戸が開け放たれていることからして、おそらく農具をもって畑の世話をしに行ったのではないだろうか。
これだけ広い田園をうさちゃんを探して回るというのは少しばかり現実的ではないかもしれない。
素直に待っているのがいいのか、しかし……。
などと考えながら小屋の周りを一周すると。
ウサギが大量にたむろしてこちらを見ていた。
「え?」
こちらを見ていた。
ちょっと裏に行ってきただけ、その短い間にウサギが集合していたのも驚きだが。
こちらを見ていた。
地面を埋め尽くすウサギが。
ちょっと怖い。
「うさちゃーん?」
私は助けを呼んだ。怖いし……。
するとウサギたちが首をかしげるように斜めに傾いた。
そしてこちらに、ゆっくりと迫ってくる。
「ひぇっ……あれ?」
そして私は気が付いた。
ウサギたちの真ん中あたりに、金色のウサギがいることに。
あの色は、うさちゃんの髪の色と、同じ……?
私が金色兎を見つめていると、迫ってきていたウサギたちがサササッと左右に分かれていく。
そして金色ウサギまでの道が出来上がった。
まさか。
「う、うさちゃん?」
私が声をかけると、金色ウサギがぴょんこぴょんこ跳ねてこちらへやってきた。
まさか。
このウサギが、うさちゃん!?
ありうる。
こんな場所に居を構え、すごい魔法をこともなげに使いこなすのがうさちゃんだ。
ウサギの姿になっても不思議ではない。逆にエルフの姿になっているのかもしれない。
赤いリボンもウサギの耳のようだったし。
うさちゃんは、私の手前で大きく跳ねて、私の胸に飛び込んできた。
私は思わず受け止めて、胸に抱く。
「おお、うさちゃん……」
耳を小刻みに動かしながらこちらを見つめるうさちゃん。
こうしてみるとかわいらしい。エルフの姿もかわいらしかったが、このモフモフ感も癖になりそうである。
うん、これがうさちゃんだ。かわいいし。
「うさちゃん、私、お城の建物が見たいのですけど、城壁とか見学できませんか」
モフモフしながらうさちゃんにお願いしてみる。
すると、うさちゃんは私の胸からぴょいんと抜け出し、ぴょんぴょんと。
そしてこちらをチラリと見る。そしてまた少し跳ねてからこちらをチラリ。
「ついて来いということですか?」
うさちゃんが頷く。
金色のウサギのうさちゃんに導かれる私。
なんだろう、これは。
すごく胸が躍る。この状況を逃すなと心が衝き動かされる。
乗るしかない。
私の冒険はこれからだ!




