目からビーム初心者とうさみ 27
その後、お風呂を勧められた。
そういえば旅の垢(たった二日だけれども)を落としてゆっくりしたいと考えていたことを思い出し、喜んで借りることにした。
お風呂は木で組み上げた質素なものだったが、植木で庭がしつらえてあったり、天井が水のように透明な素材で作られていたりとなかなか興味深かった。
着替えとして肌触りの良いローブののようなものを、帯で留める形式の服を貸してもらえた。
明らかにうさちゃんの体格の服ではなかったので尋ねると、お客様用らしい。
お客様が来るのか。天空の城に。
ああ、そういえば私もお客様だった。
そしてお風呂を出ると食事が用意されていた。
「えっ。さ、先程のは」
「お茶だっていったじゃない」
いやいやいや。
えっ。
「お、お腹いっぱいなのですが」
うさちゃんが悲しげに顔を伏せる。
ずるい。それはずるい。
しかし、入らないものは仕方がない。
机に並んでいるものはどれも見たことがない料理であり、食欲を刺激するいい匂いが……うっぷ。
やはり無理だ。おいしそうなにおいも、満腹のお腹には毒であった。つらい。
私は断腸の思いで断った。ごめんなさい。
「じゃあ明日食べよっか」
うさちゃんが残念そうにそういうと、机の上の空間が真っ黒になる。
「これは?」
「魔法だよ。朝までそのまま保存するの」
魔法ってすごい。
もう何度思ったかわからない。
それから、今日は疲れてるだろうと寝室に案内されたのだが。
「うあああああああああああ」
柔らかそうな寝台に手をついた途端、魂が抜けるような感覚を味わった。
いけない。これは。沈み込む、いや落ちていく?
ダメになる……。
抵抗むなしく、吸い込まれるように寝台へといざなわれた私は、瞬く間に眠りの世界へ旅立ったのだった。
そして朝が来る。
柔らかく体を包み込む布団の中で私はまどろんでいた。
なんだろうこの居心地の良さは。
まるで雲の中にでもいるようだ。あいや、雲には突っ込んだが感触はなかったか。
これも魔法だろうか。
ああ、一生こうしていたい。
まどろみの中で昨日のことを思い返す。
ほとんどは移動していただけだが、街についてからの出来事の密度が多すぎた。
さすがは街といったところだ。
外門。詰め所。冒険者ギルド。お友達。串焼き。迷子。強盗。上空。おんぶ。
天空の城。
私は目を見開いた。
天空の城!
私は今天空の城にいるのだ。城というより小屋だけれども。
異様に居心地のいい寝台から身を起こす。つらい。この肌触りからしてもう。
後ろ髪を引かれながらついに寝台を離れることに成功した。
私の精神力も捨てたものではないようだ。
「天空の城なんて興味があるに決まっています」
せっかく足を踏み入れたのだ、散策をしたい。
叶うならば、外壁など見学したいが、森がずいぶん広かったし辿り着くのも難しいかもしれない。
出発の時間は決めていないが、今日は村跡に向かう予定なので、散策の機会は今しかあるまい。
うさちゃんが起きていればちょっとお願いしてみよう。
というわけで部屋を出ようとしたところで、入り口近くの棚に昨日身に着けていた服がきれいに畳んでおいてあることに気が付いた。
自分の格好を確認する。
薄手の服の裾はめくれがって太ももが丸見え、胸元も大きく開かれている。
これははしたない。
こんな格好で出かけようとしていたなんて。もし誰かに見られたら……ここうさちゃん以外に誰かいるのだろうか。
ともあれ着替えることにした。
昨日の服は畳み方だけでなく、汚れやしわもきれいに落とされていた。
茂みで休んだこともあり草の色が前掛けなどについていたのだが、きれいさっぱり。
もしや荷物に突っ込んであった予備の方なのでは、と疑ったが、鞄は別に置いてあり中身には手を触れられたような様子はない。いや、見ただけでわかるわけではないが、中にあったので。
夜中のうちに洗って乾かしてくれたのだろうか。
重ね重ね世話をかけてしまっている。
しかし夜に洗濯物が乾くのか。魔法かな。
なんだかもう、魔法といえば何でもありな感がある。これほど便利なのなら私も魔法を使えるようになりたい者である。
さて、着替えを済ませた私は、うさちゃんを呼びながら建物内を一回りしたのだが、見当たらない。返事もない。
困った。
食事に使った机の上もまだ黒いままである。
うさちゃんの寝室らしき部屋にもいなかったので寝ているわけでもないようだ。
となると外、か。
「うさちゃんがいないし、探すためにも外に出るのはやむをえませんよね」
私はやむをえず外に出ることにした。