表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
目からビーム編
120/494

目からビーム初心者とうさみ 25

 魔王。

 約百年周期で発生する、強力な力を持った魔の王。

 その名にたがわず、魔族を従え、魔物をも使役し、世界に滅びをもたらす。

 と言われている。


 その魔王が辺境都市オワリエンドで生まれようとしていた。


「市街大魔導陣最後の設営が完了しました」

「地脈の活性化も終了いつでもいけるでござる」


 オワリエンド中央にある領主館。

 その中央にある、複雑にして精緻な文様で埋め尽くされている部屋で、二人の側近の報告を受けている男こそ、今この時より魔王へと転生せんとする存在である。

 オワリカズサ。

 三回に一回程度の確率で魔王となり辺境から人類世界を攻めあがることになる者。


「で、あるか」


 報告を受けてなお目を閉じたまま。暫時の沈黙。

 魔に身をやつそうというオワリカズサが何を思うのか。

 側近の二人の頬を汗が伝った。


 そして。

 オワリカズサが目を見開き。


「ではこれより、魔性転生の儀をとりおこな――」



 言葉の半ばですべてが光に包まれた。







 ■□ ■□ ■□







「って言うことがあってさあ」

「なんの話ですか」


 目を覚ました私に、うさちゃんが唐突に話し始めたのは魔王がどうとかいう荒唐無稽な話だった。


 なぜ私が目を覚ましたのか、というと、取り乱して目からビーム漏れした私を、うさちゃんが魔法で眠らせたからだという。

 多芸なことだ。私なんて目からビームくらいしか出ないというのに。


「オワリエンドのビーム跡が生まれたときに起きた事件の話だよ」

「は、はあ」


 まるで目からビームが直撃したような言い方である。


「オワリエンドは魔導陣として設計された町なんだ。

 さらに大地を流れる魔力の血管ともいえる地脈の位置も計算されていて。

 さらにさらに、現在周辺の魔力が高まっているの。切り株が魔物に容易に転化するくらいにね」

「突拍子もない話ですね」


 いきなり複雑な話をされても困る。


「どっちかっていうと、メカちゃんの方が後からやってきたぽっと出なんだけどね。百年くらい前から進められてた計画だし。

 で、儀式が成功していたら周辺百キロくらいの魔力と命を飲み込んで魔王が生まれていたんだよ。それをメカちゃんが止めたわけ。びっくり」

「びっくり」


 びっくり。

 え、本当に目からビームが直撃したというのか。

 いや突然そんなことを言われても、実感も何もないし事実かどうかもわからないし。

 何が言いたいのだろうか。


「だからまあ、人知れず世界を救ったわけだから、無駄にただ破壊をまき散らしたわけじゃないよ、みたいな?」

「あ、それは別に」

「えっ」

「すみません気を使わせて」


 なるほど、このエルフの少女は私が取り乱したのを勘違いして気を使ってくれたらしい。

 いい子だ。


 私は手を伸ばしてうさちゃんの頭を撫でた。

 うわ、髪さらさら。

 うさちゃんは私を見上げながら、されるがままになっている。


「私が先ほど取り乱したのは、目からビームで起こしたことに、私の心がまるで動かないことに気づいたからです」

「えっ、それは変だね」

「変ですよね」


 面と向かって変と言われて私は肩を落とした。

 変ですって。

 直接言われると響くものがある。つらい。


「あいや、そうじゃなくって。そんなことで取り乱しちゃうくらいなのに、ビームでやらかしたことに心が動かないっていうのが変。おかしい」


 そんなこと。やらかした。変。おかしい。

 散々な言い様である。


 だが、うさちゃんの言いたいこともわかる。

 大量破壊をしでかしてもまるで平気な外道であれば、衝撃を受けなかったことに衝撃を受けるだろうか。

 程度の差どころかまるで全く気にならないのだ。

 変と言われた程度で悲しくなるというのに。

 それこそ変だ。おかしい。


「精神制御受けてるかも? なにか心当たりとかない?」

「あります」


 あった。








 私は記憶を失って目覚めてからのことを、うさちゃんにすべて話した。


「なるほど。その男の人が怪しいね。っていうか確定?」

「やはりそう思いますよね」


 目覚めて最初に見た謎の男。

 おそらくはあの男がカギになるのだろう。

 目からビームの。それと、もしかしたら記憶も。


「問題はその人が生きてるか、かなあ。生きてても姿を消してたら……んー、いっぺんメカちゃんがいた村に行ってみる?」

「はい、えーと、うさちゃん、手を貸してくれるのですか? いえ、なぜ?」


 なんだかうさちゃんが主体で動き出している。

 これは私の問題で、うさちゃんが関わっても何の得にもならないと思うのだけれど。

 私としては、どうもすごい魔法使いらしいうさちゃんが手を貸してくれるのはありがたいが。


「あー、なんかちょっと親近感覚えるというか」


 手に余るものを押し付けられてるところとか。

 口の中でごにょごにょと続けていたのはこんな感じだろうか。

 うさちゃんも何か抱えているらしい。


「まあ、もうすぐ日も暮れるし明日にしようか。移動するから乗って」


 うさちゃんがこちらに背を向ける。

 どうしろと。


 私が戸惑っていると。


「あ、髪が邪魔かな。はい。おんぶするから」


 長い髪を右肩の向こうへまとめて流して改めてはい、と。

 おんぶ……乗れるの? この子私の胸より頭の位置が低いのだけれど。


 結論を言うと乗れた。

 うさちゃんの頭に胸を乗せる形でちょうど平衡がよろしい。

 ついでに胸が軽い。ちょっと快適。


 うさちゃんは空を滑るように駆けた。西に向かうので夕焼けが眩しかった。




 移動中にちょっとした会話をした。


「そういえば、うさちゃんが言うことが事実なら、滅ぶかもしれないオワリエンドになぜいたのですか」

「滅ぶ前に名物食いだめしようかなって」

「……滅ぶのを止めるとかではないのですね」

「私、直接関係ない争いには、何か理由でもない限り関わらないようにしてるんだ」


 精神制御疑惑の私は人のことあまり言えないが、うさちゃんも結構アレらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ