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使い魔?うさみのご主人様 5

 メルエールは困惑していた。


「きゃああああ! かーわーいーいー!」

「ほらほらこっちも撫でていいのよ」

「やーん」


 王立魔術学院では組み分けされた教室で朝礼が行われる。

 その教室の中。


 メルエールの周りで、女学生たちがキャッキャウフフ。


 なんだこれは。

 自分は孤立していたはず。

 どういうことだ。


「わたくし、エルフってもっと怖いものかと思っていました」

「わかるわ」

「わたくしもー。こんなに可愛らしかっただなんて」


 普段遠巻きにしている同級生が話しかけてくる。


「え、まあその使い魔ですから? 魔獣や小妖魔も……」


 危険な生物でも使い魔になれば従属するのでおとなしくなるのではないでしょうか。と言いたかった。


「なるほど、そうですわね」

「メルエール様の使い魔ですから例外ということですわね」


 メルエールに話しかけてくる女学生の中心には、猫とウサギと雀と梟に囲まれてじゃれているエルフがいた。

 もふもふしている。

 うんまあ確かにかわいらしい。

 ウサギはメルエールも撫でてみたいと、前々から思っていた。


 いやそうじゃなく。

 どうしたらこんなことになるのか。

 愛想笑いを垂れ流しながら、メルエールは思い返した。





 ■□■□■□■□





「おはよーございまーす!!!」


 ワンワソオの前から逃げ出して、教室にやってきた。


 朝礼を受けて、午前は座学、午後は実習というのが基本の時間割である。


 メルエールは遅刻しないよう余裕をもって登校するようにしている。

 成績が悪いのでせめて担当教師の心証を悪くしないようにと思ってだ。

 早めに来て静かに座って待つのだ。

 教本を読んだりもする。

 今日もそのつもりで教室へ入る。


 いつもならそっと戸を開けて静かに自身の席に着くのだが。


 突然うさみが大声で挨拶の言葉を叫んのだった。


 えっ?


 メルエールは思わずうさみを見た。何してくれちゃってるの。

 うさみはニコニコと笑みを浮かべてきょろきょろと教室を見回している。

 珍しいのだろう。


 うさみに釣られたわけではないがメルエールも教室の中に目をやる。


 教室には長机が二列に並んでおり、机一つを学生二人で利用する。

 一部の大型の種を除けば使い魔も同伴する。


 今日もすでに登校して席についていたりおしゃべりしている学生や、その使い魔がいたのだが。


 その全員がメルエールを見ていた。


 え、あ、う。


 メルエールは口をパクパクさせた。


 メルエールの使い魔のうさみがいきなり大声を出した。

 声の方向を向いたらメルエールがいたというわけだ。


 みなさんおしゃべりなど中断してこちらに注目している。

 これはもしかしてあたしがなんか言わないといけないのか。

 メルエールは冷や汗を流しつつ何を言えばいいか考えた。

 そして思いつかなかったけれども、何か言わないと固まった空気が動き出さないと妙な確信があって。


「お、おはようございます?」


 頭に残っていた直前のうさみの挨拶が口から漏れ出た。


「お、おはようございます」


 学生の何人かが返事を返してくれる。

 ざわめきが戻る。止まっていた時間が動き出すような感覚。

 メルエールへの注目が薄らいでゆく。


 しかし、うさみの攻撃はまだ終わっていなかった。


「ご主人様! 猫さんや鳥さんやウサギさんも学生さんなの?」

「そんなわけないでしょっ! うさみと同じ使い魔よっ!」


 ぺしっ。

 うさみの頭を平手ではたいた。ちょっといい音がした。


 くすっ。

 誰かが笑った。


 笑われた――!

 メルエールの顔が真っ赤になる。


 その瞬間、うさみが跳びだした。

 笑い声が聞こえたあたり、女学生の一人に向かう。

 女学生の使い魔が、護るように前に出る。


「ねえねえお姉さん!」

「ひっ、な、なにか?」


 うさみがずいずいと寄っていく。

 使い魔がそれを防ごうと間に入る。

 そしてうさみが使い魔を――。


「この子撫でていいですか!」


 うさみがその女学生の使い魔のウサギを抱き上げて撫でくりまわした。

 答えは聞いていないといわんばかりに。熱烈に情熱的に。


 女学生が、それだけでなくうさみの行動を警戒して様子をうかがっていた教室中の学生が、唖然とする中。


「ちょ、こら、何やってんの失礼でしょうが! あーもう! おばか!」


 メルエールが慌てて駆け寄り、うさみの頭をぺちんした。


「あいたー!」


 うさみが使い魔ウサギを離し、大げさに頭を抱え、涙目でメルエールを見上げる。

 使い魔ウサギは、うさみの魔の手から逃げ出し、主人に跳びついた。


 しばし静寂が再び教室を包んだ。


 ぷふっ。


 使い魔ウサギの主人が、静寂を破る。吹き出したのだ。


「いいですわよ。ただし、やさしくね?」


 そう言って使い魔ウサギをうさみに差し出す。

 使い魔ウサギはびくりと体を震わせたあと、脱力して身を任せ。

 うさみはウサギを撫でまわした。


「やー! ふわふわー! すごーい! きもちー!」




 そこからの展開にメルエールはついていけなかった。


 ただ、気づいたら周囲をキャッキャウフフが囲んでいた。

 何が何だかわからない。

 せいぜいうさみがニコニコしながらやりたい放題していただけとしか思えない。

 いつの間にか。そういつの間にかとしか言いようがない。

 教室内かわいい系使い魔を撫で合うの女子の会、みたいな集団が出来上がっていた。

 メルエールも、もふもふふわふわをなでさせてもらった。

 梟の胸の毛が素晴らしかった。


 先ほど置いてきたワンワソオも教室のにやってきてチラチラこちらをうかがっていたが、女子集団に突っ込んでくる様子はないようだった。


「あ、あのわたくしの使い魔もかわいいですわよ。よかったら撫でてみませんか?」 

「ごめんなさい、犬だけはちょっと……ちっちゃいころに吠えられて追い掛け回されて噛まれちゃってからその」

「ああ、それは……残念ですわ」


 小型犬の使い魔をもつ女子がうさみに断られてショボンとしていたので、メルエールが撫でた。犬も可愛いよね。

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