目からビーム初心者とうさみ 24
「わたしはどこにでもいるようなエルフの魔法使いのうさみ。おねえさんは?」
「目からビーム子です。やはりどこにでもいるエルフ……」
どこにでもいるエルフというのがどういう存在なのかはわからないが、ベリーの反応からすると、見かけたら運がいい希少生物のような存在ではないかと推察される。
「そのどこにでもいるエルフってなに?」
「わかりません。友達が言っていたのを耳にしただけです」
推察できてもあくまで推察。結局なんだかわからない。
ひとまずこうして言葉が交わせるのだから、様子を見るのが得策だろう。
落ちたら死ぬだろうし。
「でもそっかあ。目からビーム子さんかあ。最初に名前を聞いておけばよかったよ。メカちゃんかムコちゃんって呼んでいい?」
「うさちゃんと呼んでよければ」
「じゃあメカちゃんで!」
“メカ”らビー“ムコ”ということか。愛称なんてつけられたのは初めてだ。記憶は二日分しかないけれど。
「ではうさちゃん。名前を聞いておけばよかったとはどういう?」
「だって、『目からビーム』子でしょう?」
「闇を切り裂くきらめく瞳がどうかしましたか」
古い言葉で『闇を切り裂くきらめく瞳』それが目からビームだと私の知識にはある。
あるいは長命と言われるエルフにはまた違う意味が伝わっているのだろうか。
だがうさちゃん子どもだし……。
エルフといえど、私よりも年下なのでは?
「“ビーム”って言うのは大枠で言うと、攻撃性の光線のこと。“目から”って言うのは目から出るってこと。つまり目からビームで目から出る光線で攻撃するということになるんだよ」
「えっ」
「でも闇を切り裂くきらめく瞳、って詩的で素敵な訳だね」
んんんんんんんんん!?
ちょっと待ってほしい。私の根幹が揺らぐ音がする。
目から光線が出る?
それって……。
「すごくカッコよくないですか? 考えた人は天才か……!」
「あーうんカッコいいよね」
私は慄いた。
目から光線。想像するだけでカッコいいではないか。
自分が目から光線を出している姿を想像する。
……いい。
……はっ、まさか、いやもしかして、きっとおそらく間違いなく。
私は目から光線を出しているのではないか。
天啓が下った。
そう、あの男は言っていた。目からビーム子が目からビームを出していると。
つまり私は目の前をきらめかせているわけではなく、光線を出しているのだ。
なんてカッコいい!
私は目覚めて初めてあの男に感謝した。
「あれ、でも光線を出している間眩しくて見えないうえ目が痛いというのはものすごく間抜けなのでは?」
攻撃性のものなのに見えなくなったらあてられないし。
そうでなくても目が痛いのはつらくて動けないし、撃った後しばらく見えないし。
「誰ですかこのお馬鹿な欠陥仕様にしたのは。あの男ですか」
感謝中止。
もう一度言おう、感謝中止。
「あの男?」
「ええ、私の目からビームを出せるようにした、というようなことを言っていました」「そんなことが……」
うさちゃんが黙って何かを考えこみ始めた。
せっかくなので私も考えよう。
私は目からビームを出していた。。
……あれ。
ということは。
「もしかして。村や森を切り株にしたのは、私?」
「そうだねー」
考え事に意識をとられているからか、おざなりに肯定してくるうさちゃん。
私はというと強い衝撃を受けていた。
あんな大規模な破壊を私が行っていた……あの男や私を襲った男、それからベリーたちを襲った賊やバイインの荷物、そして。
オワリエンドの強盗……オワリエンドの街。
街の中枢部を通るあの線を、うさちゃんは何と言った?
ビーム跡。
結構な被害ではないだろうか。
「ん、あれ、どうしたの?」
慄く私に気づいたうさちゃんが声をかけてくれる。
「私は……」
私が衝撃を受けていたのは目からビームで出した被害についてではなく。
それらの一連の破壊行為と結果に対し、私が何の感慨も罪悪感もわかずかけらも衝撃を受けなかったこと、であった。
衝撃を受けないことに衝撃を受けるなんて言葉遊びのようだが。
これだけのことをしでかして、何の痛痒も感じないというのはどうなのだ。
人としておかしくないか。
もしや私は根っからの破壊者でこの程度まるで大したことがないと感じるような人でなしだったのか……!?
「私は……!」
私の目の前が真っ白に染まった。
眩しっ!