目からビーム初心者とうさみ 23
私が目を開けると、青空が広がっていた。
地面にあおむけに寝そべっているわけではない。
何かに腰掛けているような状態だ。
「え、いったい何が……ここは?」
私は辺境都市オワリエンドを散策中、建物に見とれてうっかり裏路地へ迷い込んだところで強盗に遭い悲鳴を上げてうお眩し。
私の記憶はそこで終わっているというか、そこから続いているというか。
意識が途切れたような記憶はない。
眩しさに視界を失っていただけだ。
そして強盗から逃げようと、しかし袋小路なので動きをとれずにいたはずだ。
それが突然、青空に。
こんな風に目を閉じて開いたら周りの様子が一変しているなんて初めて……ではなかった。最初の屋敷の時もそうだった気がする。あの時は屋敷が残っていたので移動はしていなかったと思う。
だが今回は青空だ。
まさか移動していないなんてことは……いや移動していたとしてどうやって?
移動していたとしても、していなかったとしても、異常事態であることに違いなく。
私は慌てて廻りを見回そうと――。
「おねえさん。動かないでね。ここはこのへんで高い山の頂上と同じくらいの高さ。落ちたら怪我じゃすまないよ」
後ろから声が聞こえた。
覚えがある声。女の子の声。闇夜に響く鈴の音、いや、静寂の中の水音。そんな澄んだ音。
これまでに二度聞いた。
「ど、“どこにでもいる”エルフ?」
ベリーが言っていた、詳細不明な表現が思い出されて、口から漏れた。
あのエルフ少女の声だ。
「へ? なぁにそれ?」
「え?」
「ん?」
私は首を傾げた。違うの?
なぜだかエルフ少女も首をかしげているような気がした。
「ええっと、ここは空高いところ、さっきまでいたオワリエンドの上空です。私が魔法で高度を維持しているから、なにかあったら落ちます。だからビームしないでね」
「上空? びーむ?」
「え?」
「え?」
気を取り直したように、エルフ少女が口を開くが、言っていることがちょっとよくわかりませんね?
私が首をひねっていると、エルフ少女が歩いて私の前に回り込んできた。
エルフ少女も小首をかしげている。斜めになったリボンが揺れている。
「えっと、前を見てください。空です」
「はい」
「左右を見てください。空です」
「はい」
「下を見てください。地上です」
「はい……えっ?」
言われるままに下を見ると、地上……え、これ地上なの? 多くが緑に覆われ、ところどころに茶色い線が見えた。そして真下には小さな丸いものが。
「見えにくいかな。【望遠の魔法】」
エルフ少女が何事かつぶやくと、下に見えていたものが突然大きく見えるようになった。
「拡大しようと思ったらもっと拡大できるよ」
「拡大?」
言われたことをオウム返しにつぶやくと、さらに大きく見える。
あれは人? すごく小さな人が見える。
少し視点を動かすと、あの動いているのは切り株だろうか。
人とぶつかり合っている。
あっちの方には……あれはウサギ? ウサギが切り株をかじっている。
ウサギは切り株に弱いのではなかったか。そんな知識があるのだが。
こっちは、街か。あれは外門。あの看板は冒険者ギルド。ああ、オワリエンド、なのだろうか。
「あれ、あの線はなんでしょう。中壁、ではないですよね。外街から都市の中央部を抜けてまっすぐ貫いてもう一方の壁を通り越して外壁にまで達して……」
「ビーム跡だよ」
「びーむ?」
声のする方を見るとなんだかわからない薄桃色の何かで視界がいっぱいになった。
なんだこれは。
「うわあ……」
思わずのけぞる。
同時に視界が光に包まれる。
目からビーム。きらめく光だ。
「眩しい!」
「うわっと。え、なにこれさっきより太……」
「え、なんですか?」
「うひゃあ!? こっち向かないで!? あ、望遠の魔法か! 解除解除!!」
何が起きているのかわからないがこっち向くなと言われるとちょっと傷つく。
私は顔を伏せなかった。
声がする方とは別の方を向く。
というか眩しい。止まれ止まれ。
「眩しかった」
「危なかった」
「え?」
「むう」
光るだけで危ないことはないと思うのだけれども。
まさかエルフ少女が闇というわけではあるまい、なんて冗談は置いておく。
だって闇を切り裂くきらめく光、なんてのは比喩であろう。
しかし一体何がどうなっているのか。
そろそろはっきりしたいところである。上空とか。
「ちょっとだけ状況が呑み込めてきたよ。これどうしたらいいんだろ」
それはうらやましい。ぜひ教えてほしいところだ。
どうしたらもなにも、こちらはなにもわからないのだから。