目からビーム初心者とうさみ 21
「三本くださいな」
「あいよっ! ちょっと待ってな、ちょうど焼きあがるからよ」
「わーい」
適当なところで冒険者ギルドを抜け出した私は、エルフ少女に教わった屋台にたどり着いた。
ほかにもいろいろな屋台があって目移りしたが、すでに私の体はあのお肉を求めていたので無事たどり着くことができたのである。
それにしても、このお肉の焼ける匂いといったら!
エルフ少女にもらったものはまだ温かかったとはいえ、焼きたてと比べれば冷めていたことに違いない。
やはりお肉、焼きたては格別だ。
この匂いは、そう確信させてくれるだけのものだった。
「お嬢ちゃん、門の方が騒がしいが、何かあったのかい?」
「じゅる……あ、切り株がたくさん歩いているそうです。でも、冒険者の人がたくさん対応に出て行ってましたから」
「なるほどなあ。それなら安心だ! よぉし、教えてくれたお礼に一本おまけだ」
「わーい、ありがとうございます!」
私は胸の前で手を組んで喜んだ。
この程度のことでおまけしてくれるなんていい人だ。また買いに来よう。
「ところでこれは何の肉ですか?」
「滅殺ウサギのもも肉だよ」
「なるほどウサギですか。はむ……あちゅぅい!」
代金と引き換えに串焼きを受け取ると早速かぶりつき、ハフハフしながら頭を下げて屋台を去る。
やはり焼きたてのお肉は大正義であった。
肉の食感、肉汁のうまみ、絶妙な塩加減。噛めば混ざってまた違う味わいに。
エルフ少女が両手いっぱいに持っていたのが頷ける。
いやまてよ、冒険者ギルドは多少とはいえ屋台から離れている。
もしかすると両手いっぱいいよりも多く買っていたのではないだろうか。
だって全部の串にお肉がついていた。
これを買っておいて、口を付けずにそれだけ移動するなんてこと、できるだろうか。
それに気づくとはやはり私ってば天才なのでは。
まあ、それはひとまず置いといて。
「観光と宿屋どちらを優先しましょうか……宿屋かな」
自分の身を見下ろしながら私はつぶやいた。
たった二日歩いただけだが、ずいぶん汚れてしまっている。
寝たり襲われたり寝たりしたのが大きいのだろう。目に付くところは手で払うくらいはしているが、後ろとか胸の下とか目の届かないところはいかんともしがたい。
道中汗もかいたことだしすっきりもしたいところである。
それに荷物も。
大金を持ち歩くのは不用心だろう。
できれば預けられるしっかりした宿に泊まりたいところである。
幸い、門番さんの詰め所でいくつか候補を教えてもらった。
紙に書いてもらっているので忘れる心配もない。
早速、鞄から書付けを取り出し……。
しまった。両手がふさがっている……!
串焼き四本、片手で持つには不安がある。
がんばれば持てなくもないが、落としてしまったら大変だ。屋台のおじさんに申し訳が立たない。この串焼きはちゃんのお腹に納めなければならない。
だが、それでは両手がふさがってしまったままで。
鞄から紙を取り出すのは不可能だ。
無理をすればできるかもしれないが、鞄にべったりとか、うっかり落としてしまっては大変だ。私の食欲に申し訳が立たない。この串焼きはちゃんのお腹に納めなければならない。
屋台に寄る前に宿の位置を確認していれば……。
私ってば、馬鹿馬鹿ね。
私は落ち込んだ。
串焼きを口に運んだ。
私は幸せになった。
「食べ終わるまで歩いて観光しましょう」
まだ外門と詰め所と冒険者ギルドと串焼き屋台と串焼きしか見ていない。
お肉に夢中で串焼き屋台しか目に入っていなかったのだ。
せっかく街まで来たのだから他の建物なんかもじっくり鑑賞して回りたいところだ。
ここはその時間ができたと考えればよいのでは。
串焼きを食べるくらいそうたいした時間もかかるまい。
それから宿を探しても遅くはないだろう。
この時私はそう考えていた。
結果を述べると、迷った。