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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
目からビーム編
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目からビーム初心者とうさみ 20

「もう、肌着で納品物を包むのは控えましょうね。人前で取引できなくなりますから」

「えっ、なんでそれ今言うんですか!?」


 冒険者ギルド、受付のある広間に戻ってきたところでマニアルが突然そんなことを言い出すので、私は慌てた。

 顔を手で覆う。

 恥ずかしい。

 恥ずかしいから奥に連れて行ったということではなかったのか。

 ここでそれを口に出してどうするのか。

 気にしていなかった時は平気だったが、改めて指摘されるとものすごく恥ずかしい気になってくる。


 マニアルはニコニコ、いや、ニヤニヤしながら言葉を続ける。


「今度また肌着を使うことがあったらこっそり言ってくださいね。奥の部屋を使いますからね」

「ないない、もうないですー! ……たぶん」


 マニアルの肩をぺちぺちを叩く。


 ふと気づくと、広間にいる人たちの視線がこちらに集まっていた。

 私は一瞬ひるんだが、胸を張って睨み返した。

 なにか?



 広間の冒険者、その中でも男性陣がさっと目をそらすのと、入り口の扉が勢いよく開かれるのは同時だったと思う。



「緊急! 緊急! オワリエンド東の森林地帯に『歩く切り株』が大量発生! 貴族の馬車が巻き込まれている! 救出依頼! それから東外門防衛依頼!」



 入ってきたのは外門の門番さんの一人のだろう、同じ装備をしていた。

 彼が言葉を発するにつれ、広間の空気が一気に緊張したものに変わる。

 受付にいた女性の一人が門番さんのところへ駆け寄り、別の一人がカウンターにあった鐘を力強くたたいた。

 重厚な金属音が鳴り響く。


「歩く切り株! 斧が特攻! 炎も有効だが要注意! Bランク以上、防衛指揮ができるものは!?」

「『黒鉄の鉄槌』が承ろう」

「任せます! Cランク以下、動けるものはギルド前に集合! 装備忘れるな!」

「応!」

「おいなんだ!」

「緊急です。状況一、状況四、C『歩く切り株』スタンピード!」

「よし、救出部隊Bランク以上! いるか!?」

「『炎の斧』だ! 条件ぴったりだぜ!」



 一気に騒がしくなる冒険者ギルド。

 怒鳴るような声があちこちで上がり、また建物の奥から、あるいは二階から人が次々と現れ、外への扉の出入りが激しくなる。


 私はマニアルに誘導されて邪魔にならないよう広間の隅に連れていかれた。


「ちょっと忙しくなるので、人が落ち着くまでこの辺りにいてください。出入りが落ち着いたら帰ってもらっても大丈夫ですので」

「あ、わかりました。ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました。また納品の際はぜひ。それでは失礼します」


 先ほどまで私をいじっていたマニアルも、まじめな顔で喧騒に混じっていった。

 どうも大事件が起きているらしい。


「なにしてるの?」

「よくわからないですけど、歩く切り株? というのが大量発生したらしいです」

「ああ、そういえば切り株がいっぱいあったね。魔物化しちゃったのか」

「そのようですねえ……あれ?」


 声のする方を見ると、見覚えのある赤いリボンが揺れていた。マニアルのウサ耳によく似ている。

 視線を下げると、昨日会ったエルフの子どもがいた。

 なぜか両手の指の間に肉の串焼きを四本ずつ挟んでおり、そのうち右手人差し指と親指に挟んだものをおいしそうに食べている。


「あ、昨日の」

「昨日ぶりー桃色のお姉さん。よかったら食べる?」

「ありがとう。わーい」


 串焼きを一本もらってしまった。

 塩を振ってある、香ばしいお肉。

 ごくり。おいしそうすぎないだろうかこれ。匂いを嗅ぐだけでお腹が鳴りそうだ。

 もはや食べるしかない。


 食らいついた。

 歯が切り裂いた隙間から肉汁があふれる。

 熱い。でも。

 多めに振ってある塩と合わさって、絶妙なソースと化す。

 おいしい。

 予想通りの味なのに予想以上においしい。おかしなことを言っているようだが、そうとしか表現できない。

 何の肉だろうか。

 いやそんなことはいい。

 もっと食べたい。


 あっという間に食べつくした。


「はふ……」

「おねえさんはあっちに混ざらないの?」


 幸せな時間から現実に引き戻された。

 エルフ少女がこちらを見上げてくるので、私はしゃがんで目線を合わせて答えた。


「私は冒険者ではないので」

「そうなんだ」

「あなたは?」

「なんか騒がしかったからどうしたのかなって思って見に来たんだ」


 野次馬か。

 食べ歩きながら興味を持ったものを見て回る。なかなか高尚な趣味である。


「まあ切り株なら大丈夫かな」

「なんでも貴族の馬車が巻き込まれているとか」

「ああ、それは大変だねえ」


 のんびりと話しながら騒ぎを眺めていると、いつのまにかエルフ少女の持っていた串から肉が消えていた。


「おねえさん、教えてくれてありがとね」

「いえこれくらい。ところで、さっきのお肉どこで買いました?」

「大通りを西に行って四つ目の角の手前くらいの、右手の赤い屋台だよ」

「おお、ありがとうございま――」


「あ、目からビーム子ちゃん!」


 名前を呼ばれたのでそちらを見ると、ベリーが歩いてきていた。

 奥の部屋から戻ってきていたらしい。


「どうしたの、そんなところでしゃがんで」

「いえ、この子と……あら?」


 エルフ少女は今の間に姿を消していた。

 どこへ?

 あたりを見回してもいない。

 私は立ち上がり。


「さっきまでエルフの子がいて話をしていたんです。どこか行っちゃいましたけど」

「え、“どこにでもいる”エルフにあったの? ついてるじゃない。いいなあ」


 どこにでもいるエルフ?

 私が問い返そうとすると、ベリーは手をパタパタと振りながら。


「あたしたち、ちょっと人助けの手伝いすることになったからさ、現場知ってるかもしれないってことで。まあ、そう何日もかからないでしょうから、よかったらまた会いましょ」

「はい、気を付けて」


 忙しそうだ。詳しい話を聞くのは取りやめて、挨拶して見送った。


 どこにでもいるエルフか。

 どこにでもいるのにいなくなるとはこれいかに。

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