目からビーム初心者とうさみ 19
「さて、どうしましょう。冒険者ギルドで買い取りということでよろしいですか? その場合、高額取引なので、お名前と、署名をいただくことになります」
マニアルが改まって尋ねてくる。
これ以上を求めるならば。
冒険者ギルドに登録して賢者の薬草の納品依頼を待つか。
これは依頼が来るという保証がなくその間に品質が落ちて売れなくなる可能性が高い気がする。
あるいは、自力で必要としている人を探すか。
どうやって探すのか。時間とお金がかかるのでは。見つかったとして信用してもらえるかどうか。
問題が多い。
ベリーの顔を立ててか、少なくともマニアルは好意的な態度で、言う必要がないこと――例えば末端価格だとか――まで教えてくれている。
これならスパッと決めてしまってもいいだろう。
「ここで買い取りお願いします」
「ありがとうございまーす! それじゃちょっと書類作りますから……あー、こちらで布用意しますんで、その肌着を巻き替えます?」
「あ、はい。それは助かります」
気の利く人だ。
高そうだから使うかどうか迷ったくらいである。回収できるなら手放しで嬉しい。
マニアルが近くの棚からぼろ布を取り出して渡される。
「じゃ、すみませんが、書類作っちゃいますのでその間に」
「はーい」
部屋の隅にあった机の引き出しから、筆記用具を取り出して書類を作り始めるマニアル。
私も自分の作業を始める。
といっても、巻いてある布を外して、先ほど出してもらった布を水で濡らして巻き直すだけである。
あ、水。
「すみません、水はありますか?」
「そちらの甕に汲み置きがあるので使ってください」
ということで完了である。おわり。
「終わりました」
「はい、でしたら少しお待ちください」
「見ていてもいいですか?」
「構いませんよ」
横から書類をのぞき込むと、難しい文体で賢者の薬草の取引について、量と金額、取引担当者と取引相手――つまり私――の署名欄。
これを先が光る羽ペンで作成していた。
インクが光っているわけではないのに、ペンが髪に接している部分が光っている。
「取引書類を作るための神聖魔法ですよ。これで間違いなく取引したことを証明できます」
私が気にしていることを察したのか、マニアルが説明をしてくれる。
「マニアルさんは神官様だったのですか!?」
「いえ、これは商取引をするものならだれでも覚えるものです。神官の方はもっとすごい魔法を使いますよー」
なんと、それでは商人はみんな神聖魔法を扱えるということになるのか。
すごいなあ魔法。すごいなあ都会。
私も魔法を覚えることができるだろうか。
魔法が使えればそれで生計を立てたり……。
いや待てよ、みんなが使えるのではちょっとした魔法を覚えたくらいでは稼げない? ううむ。
「あ、それからですね、これだけの大金を手に入れたというのは秘密になさった方がいいですね」
私が悩み始めたところで、マニアルがまじめな顔をして言った。
「冒険者でも、あからさまに稼いだりすると強盗に狙われたりするので。お客様も戦いの心得があったとしても気を使った方がよろしいかと。そうでなくてもこうやって奥で商談をしているので目立ってしまってますし」
「ええっ!?」
強盗。
強盗といえば昨日襲われたような奴だろうか。
いや、確かに私のようなか弱い少女が大金を持っていそうだとなれば、そういう人なら狙うかもしれない。
ええー。怖い……。
そうなると、何でこうやって奥に連れ込んだのかと問いただしたくなった。
しかし、あの場で書類を作って取引をして、人前でお金を受け取るよりはマシ?
だとすると逆に気を使ってもらっているのだろうか。
いやそれにしても、都会怖い。どうしよう。
「そんなとき護衛を依頼するなら、ぜひ冒険者ギルドへどうぞ」
「え、そういう売り込み方ってずるくないですか」
にっこり笑うマニアル。
私の顔は引きつっていることだろう。
「あはは、半分冗談ですから。誰の庇護を受けていない女性が危ないのは事実ですが、大通りを通れば滅多なことはないですよ。と、できました」
からかわれたのか、注意を促されたのか。判断が難しい。
私がふくれていると、マニアルが書類を差し出してきた。
さらに、どこからか取り出した金貨を横に積み上げていく。
書類に記された量と同じだけ。
「文字の読み書きはできます? はい、では。
リーネ様の名において、この内容に間違いがなければこちらに署名をお願いします」
突然、姿勢を正して厳かな口調になるマニアル。
書類が光り出す。
これも魔法の一部なのだろう。
私は改めて書類に目を通し、取引内容の通りであることを確認した。
名前を書く。
目からビーム子。
「目からビーム子様。古風なお名前ですね」
みなさんそうおっしゃいますね。