使い魔?うさみのご主人様 4
使い魔を失うことは基本的には名誉なことではない。
しかし不慮の事故や名誉の死傷で失われることは往々にしてある。
主である魔術士の護衛としての役割を求められる場合。大型の獣や小竜など。
偵察や通信で主から離れる場合。蛇や小型の虫、鳥など。
純粋な事故。
他にも原因はいくらでもある。
熟練の使い魔は貴重だが、主の命には代えられない。
だからいざというときは使い捨てにするし危険な役割を代行させることもするのだ。
使い魔を失った場合、改めて別途使い魔を召喚するのが通例だ。
予算の都合などでかなわないこともあるが基本的には。
なのでメルエールがうさみを失えば、三度目の使い魔召喚儀式に失敗していた事実を闇に葬ることができる。
思わず、うさみを見る目が険しくなる。
対して、うさみはにへらと笑った。睨まれているにもかかわらず。
そして声を出さずに口を動かした。
せ い こ う す る の ?
メルエールは目を閉じた。
メルエールは結局のところ召喚儀式を一度も成功させていない。
三度目で召喚だけは成功したので、次は十全に成功するかもしれない。
でも失敗するかも。失敗しそうな気がしてきた。
失敗したら、対峙している男子にさらに絡まれる口実を与えるのは明白だろう。
なんせカネを出しているわけで。
いや仮に成功したとしても、ワンワソオのカネで召喚した使い魔と一緒に居ることになるわけか。
…………。
目を開く。
自分にしがみついているうさみの手を取って握る。
握手の形である。
そしてニコリと笑いかけた。
そしてメルエールはワンワソオに向き直った。
さてなんて断ろう。
■□■□■□■□
ワンワソオ黒森子爵嫡子は気になる相手がいる。
メルエール明月男爵令嬢。
同級生だ。
中等部からの編入だったのは何やら事情があったらしい。
初めて見たときからどうにも気にかかって仕方がないのだ。
明月男爵家といえば北管区の半分から嫌われ、もう半分から腫物のように扱われている家だ。
それを知っている他の管区の貴族も積極的に関わろうとしない。
騎士や平民もそういった空気を読むので接近しようとはしない。
学院内で孤立している。
これはよろしくないよな。しかたないな。この僕が。世話を焼いてやろう。ははは光栄に思うがいい。
べ、べつに自分のためじゃないんだからね! 学院の雰囲気をよくするためにやってるんだから!
女子と絡みたいからだろう? そんなわけないじゃない!?
こうしてワンワソオ黒森子爵嫡子はメルエール明月男爵令嬢に積極的に話しかけるようになった。
名前を間違えるとムキになって訂正するのがちょっとかわいいとか。
からかうとふくれるのがちょっとかわいいとか。
べつにそんなことは思ってないんだから。
そして今日も。
先日ついに使い魔の召喚に成功したらしい。
そのため二日間顔を見ていない。
どんな使い魔を召喚したのか。見るのが楽しみだ。
メルエール嬢は戦闘用の魔術を不得手としているから、そこを補える使い魔がふさわしいだろうな。
どれ、うむ、人型の、エルフ? その幼体か?
弱そうだ。
いや、見た目で判断してはいけない。
使い魔戦闘遊戯でよく知っている。思わぬ隠し技を持つ使い魔は多いのだから。
しかし、そうはいっても人型の幼体では知れているのではないか。
それにずっとメルエール嬢の後ろにしがみついているし。
ビビってんのかコラ。
それでメルエール嬢を守れると思っているのか。
ここは確かめるべきだな。
メルエール嬢にふさわしく無ければ新しく召喚しなおすべきだろう。
こちらの判断で取り返させる以上、予算も面倒を見るぞ。当然だ。
そう伝えると、メルエール嬢と目が合った。
やはり美しい。……ではなく。
すぐに目をそらされた。
使い魔を見ている。使い魔の能力で意思疎通しているのだろうか。
まあ、待ってやろう。
さほども待たずにメルエール嬢がこちらに向き直る。
何かを言おうとして止まる。考え込んでいる。なんだろう。
僕は寛大なので待つとも。何度でも。周りの連中がなにか言っても気にしなくていいぞ。
……あれ、あの使い魔メルエール嬢の手を握っている? く、うらやましくなんかないんだから!
「ご主人様! あの犬こわいです! 目つきが! あと吠えそうだし!」
突然メルエール嬢の使い魔が叫んだ。
は?
怖い?
我が使い魔、デンクライが衝撃を受けているのがわかる。
かっこいいとかは言われ慣れているが怖いと言われたのは初めてだからか?
おいそんなしょげるな。お前は強いから場合によっては怖がられることもあるのだ。
だからクウンとか鳴くな。
がんばれ。
負けるな。
お前は強くてかっこいいのだ!
「ワンワソオ様、うちの! かわいい! 使い魔が! 怖がってるので失礼します」
座り込んでしまった使い魔デンクライを応援していると、メルエール嬢が頭を下げて、使い魔の手を引いて行ってしまった。
え、ちょっと待って。まだその使い魔の力を試してないだろう!
使い魔デンクライ、お前も早く立ち直りなさい! ほら!
ああっ行ってしま……った……。