目からビーム初心者とうさみ 13
「目からビーム子さん? ……あー古風な名前ですね。よくお似合いで」
そうだろうそうだろう。
ちょっと間があったのが気になるけれど。
現在私たちは門番さんたちの詰め所で話しをしていた。
門の内側、すぐ脇にある建物だ。
なお、門の出入り自体には特別な手続きはいらないらしい。
立派な門があるくらいなので厳格に出入りを規制しているのかと思ったら、外敵は主に魔物なので、普段は人間であればよほど怪しいもの以外は受け入れるのだという。
こことは別に街の中心部を囲う壁と、中門と呼ばれている門があって、そちらでは出入りをしっかりと取り締まっているそうだ。ちなみにここは外門。
中門がある壁を内壁、外門のある壁を外壁。内壁を境に中街、外街と呼び分けているとのこと。
外観からわかっていたが、ずいぶんと大規模な街のようである。私がいた村とは大違いだ。
「中門もこの外門のように立派な建築物なのですか?」
「いや、中門の方がずっとすごいよ。大きさはそう変わらないけれど、精緻な装飾が施されて、この辺境の街オワリエンドの名所だね」
というような雑談を挟みながら案内された会議室と表札がつけられていた部屋には、長机といすが多数、壁際には雑然と様々なものが積み上げられていた。汚れた布から、金属の棒、巻物や紙束、などなど。
整理整頓と書かれた張り紙は効力を発揮していないようだ。
ここはオワリエンドの街というらしい。
あと、中門は絶対に見に行こう。
それにしても、このような些細な雑談から重要な情報を手に入れるなんて。
私ってばやはり天才なのではないだろうか。
余談はさておき、椅子をすすめられて会議室の一角に陣取った私たち、つまり私と、五人組、それから五人組に詰め寄られていた門番さん。
それから追加でやってきた鎧を身に着けておらず、書き物用の道具一式を携えた詰所のひとだ。書記役だろう。
ちなみに、私と話していた門番さんは外に残って職務を遂行中である。
「改めまして、門衛隊副隊長のモンブです。それではみなさんお名前から確認させていただきますね」
門番さんが兜を脱ぎながら言う。優しそうな顔つきの人だ。
私の相手をしてくれた人と比べるとずいぶん人当たりが良い。同じ仕事をしていても人柄は人それぞれのようである。
ともあれ、五人組から自己紹介が始まった。
「商人のバイインです。こちらは娘のショウ子」
口ひげを蓄えた中年男性、バイインが口を開く。
てっきり剣士の人がリーダーなのかと思ったが、そういうわけではないらしい。
十代前半のおさげでそばかすの女の子が頭を下げている。この子がショウ子か。
親子と言われれば、そういえば似ている? ような? 気がしなくもない?
目じりのところとか?
ふとましいお父さんと、成長途上の娘なのでぱっと見で断言できなくても仕方ないと思います。
「冒険者パーティ『氷の剣』の剣士、アーケンだ。バイインの旦那の護衛を請け負っている」
「同じく、魔法使いのベリーよ」
「同じく、神官のクラブです」
なるほど、三人組と二人組だったわけだ。
眉毛が太くて意志の強そうな精悍な男がアーケン。
革の鎧を着てに剣を下げている
小柄で青を基調としたおしゃれな服にマントを羽織っている女性がベリー。
大きな杖と、今は脱いでいるがつば広の帽子。髪の色は青みがかった銀色だ。
大柄で屈強そうだが、温和そうな顔つきで頭をそっている男性がクラブ。
トゲトゲのついた球体がさきっぽについた棒を持っている。
氷の剣というからには、ベリーが氷の魔法を使ってアーケンが剣で戦うのだろう。
いや、氷の剣という武器を持っているのかも?
いろいろと想像を掻き立てられるなあ、と思っていると、皆さんの視線が私に集まっていることに気が付いた。
これは私が名乗る順番だということだろう。
「私は目からビーム子。薬草採りです」
たぶん。
なんせ記憶がないので断言できない。
ただ、薬草に知識が反応していたのでそういうことにしておいた。
おそらくだが、私はあの村で生きていたのだと思う。
なぜかというと、この街、オワリエンド? のことが知識になかったからだ。
村の外を気にするような生活をしていたなら、最寄りの街の知識はもっていてしかるべきだろう。
しかし街のことはさっぱり知識になかった。
そして、村で生活していて薬草に詳しいといえば薬草採りだろう、とそういう考えに基づくものである。
もっとも、間違っていても誰もわからないだろうからかまうまい。
で、やっと冒頭に戻るわけである。
モンブ副隊長に名前を褒められたので私は胸を張った。
……いやまてよ。
褒められた?
褒められてなくない?
古臭いと言われただけでは?
なんだか自信がなくなってきた。
この名前は記憶をなくした私の唯一といってよい拠り所である。
あと薬草の知識などもあるけれど。それはおいといて。
記憶だけでなく、関係者がいたであろう村も屋敷もなくなったことだし、名前も変えてさっぱりとして第二の人生を歩むのも手ではある。
だが、記憶はないけれど、私に名前を付けてくれた誰かも、何か意味があってつけたのだと思う。
記憶を失う前の私のことはあまりわからないが、あの白い服を着た男になにかをされて、今の私になった。
なんだかそれはかわいそうじゃないか。私だし。
せめて名前くらいは残してあげたい。
あともう名乗っちゃったし、胸を張っちゃったし。ふんす。
私は胸を張ったまま、周りの様子を睥睨した。何か文句でも?
しかし、どうもそれどころではなくなっていたらしい。
具体的には男性陣の目が、私の胸に集まっていた。
「オイコラあんたたち! 人の胸ばっか見てんじゃないわよ!」
ベリーが一喝した。
男性陣が慌てて目をそらし、ショウ子は何故か自分の胸に手を当てている。
なんかもう名前とかそういう感じではなくなったので、私は肩の力を抜いた。