目からビーム初心者 6
私、目からビーム子は切り株に座って休んでいた。
必死に逃げて走り続けたが、疲労で足が止まるころには視界はもちろん頭の方も落ち着いてきて、周囲の様子が目に入るようになった。
あたりは一面の切り株と下草だけが生えた開けた場所だった。
どれだけ大勢の木こりを集めればこんな光景を見ることができるのか。
そういえば村跡周辺もこのような感じになっていたような。
まさか。
あの村は木こり集団の村で大移動を?
いや木を伐りながら移動をするなんて聞いたことがない。
そもそも記憶もないけれど。
そんなことより、ひとまず見える範囲に人がいる様子はない。
地面に伏せて這うように移動しているなどでなければ、逃げ切れ、た?
そこで私は大きく息をついてから、手近な切り株に腰掛け、休むことにしたのだ。
さて、そうやって一息ついて思い出したのは抱えていた荷物である。
私の赤い革の背負い鞄と、もうひとつ。
布の草色に染められた肩掛け鞄があった。
とっさにまとめて抱えてきたのだが、これは、普通に考えれば髭中年のものだろう。
どうしたものか。
人のものを勝手に取ったら泥棒だ。
でもあの髭中年も私を襲おうとしていたわけであるし。
私はしばらく悩んでから、目の前の空間を上に持ち上げて上にある空間に置くような動作をした。
そして、とりあえず何か口にすることにする。棚上げだ。
「あれ、減っている……!?」
私の鞄を開いて中を見ると。
詰め込んでいた食料を入れた小袋が開かれており、中身が明らかに減っていた。
さらに、とっておきの……とっておきの蜂蜜の壺が!
なくなっていたのだ!
「あの髭……!」
私は怒りに震えた。
人のものを勝手にとったら泥棒である。
あの髭は泥棒だったのだ。
泥棒の荷物だったら勝手にとってもいいか。
泥棒は人ではないと私の知識にはあった。
つまり大丈夫。
私はまず自分の荷物を改めて確認した。
干し芋と干し肉と塩と水と香草と着替え。それからナイフが一本。
ほかに、それぞれをくるんでいる布や袋や葉っぱなど。
どれも村跡にあったものである。
水は井戸から汲んだもので、革製の袋に入っている。ちょっと革臭い。
それらを赤い鞄に入れたり、横についている金具に引っ掛けたりしている。
次に干し芋をかじりながら泥棒の鞄を探る干し芋おいしい噛めば噛むほど味が出る。
中にはやたら重い袋とちょっと重い袋がいくつか、食料、水袋、巻物、それから厳重に布にくるまれたなにかが入っていた。
重い袋の中身は金貨だった。
……金貨?
金貨なんてめったにお目にかかれるものではない。
少なくとも私は初めて見た。記憶がないから当たり前だけれど。
私の知識では、金貨とはおカネのなかでもすごいやつで、これがあれば街でお腹一杯ご飯が食べられるというものだ。
その金貨が百枚。
見た目の大きさよりもだいぶ重い。木どころか鉄と比べてもずいぶん重い。
それにキラキラしていて不思議な物体である。
ほかにも銀貨と銅貨の袋があった。金貨ほど数が多くはないけれど、一枚当たりの重さは同じくらいだけれど少し大きかった。
食料はビスケットと干し肉。
あるなら私のではなく自分のものを食べろよと言いたい。
泥棒の干し肉の方がものはよさそうだった。
なおさら自分のものを食べろよと言いたい。
巻物は数字がたくさん書いてあった。何の数字かはわからない。
布にくるまれていたのはきれいな石だ。
光を受けてきらめいている。
宝石というやつである。それも金銀で飾ったもの。
私の知識では宝石は金貨より価値があるらしい。それをさらに飾っているとなるとどうなることだろう。
想像を絶する価値があるのではないか。
こんなすごいものをあの髭はなぜ持っていたのだろうか。
あの髭は泥棒である。
つまり盗んだ?
こんなものを持っていたら私が盗んだと思われてしまうのでは!?
私は宝石を布でくるみなおして遠くに投げ捨てた。
金貨は、同じものがいっぱいあるのできっと大丈夫だろう。
私の知識が確かならば、神様が人間にくださったものなので、きっと犯人ではない私が盗んだということにはならないだろう。多分。
それに髭泥棒は私の食べ物を勝手に食べたわけだし、おあいこということで他のものも含めてもらっておこう。
私から蜂蜜を奪ったのだからこれでも足りないくらいだ。
赤い鞄につめなおそうとするが、全部は入りきらないので、食料を二つに分けて肩掛け鞄に移すことにする。
これなら移動しながらでも食べ物を引っ張り出して食べることができる。
私ってば天才では?