使い魔?うさみのご主人様 3
なんだなんだどうしたどうした。
メルエールとワンワソオの周りに人が集まりつつあった。
王立魔術学院では学生寮を利用する者は多い。
なぜならば、魔術学院が国内の魔術士の育成だけを目的とした組織ではないからだ。
貴族の子女をあつめて人質とする、という側面も併せ持っている。
一部の例外を除けばほとんどの学生が寮を利用しているのだ。
そして朝、始業前。
寮と後者を結ぶ通学路。
「ええっ! ワンワソオ子爵嫡子がメルエール男爵令嬢に使い魔戦闘遊戯を申し込んだのかい!?」
「エルフだじゃないかあれ」
「メルエール男爵令嬢というとあの?」
「さらわれてしまうわ!」
「ワンワソオ様もなぜあんな小娘ばかり……!」
「人型とは珍しい」
「ょぅι゛ょ」
多数の野次馬が集まるに十分な状況だった。
「使い魔戦闘遊戯ってなんですか?」
通りすがりの初等部と思われる学生がつぶやく。
「説明しよう!」
すると眼鏡をキラーンと光らせた男子学生が現れて使い魔戦闘遊戯について解説を始めた。
使い魔戦闘遊戯とは! 使い魔を使った模擬戦闘である!
使い魔同士を争わせ、どちらかが戦闘不能になるか降参するか、主が指示を出せなくなるまで戦うのだ!
参加者にはその戦績で格付けがなされ、ワンワソオ子爵嫡子は67位という上位に位置している!
一方メルエール男爵令嬢は先日使い魔を召喚したばかりの新人!
通例上位から下位への挑戦は優雅ではないとされているの・だ・が!?
「ははは、エルエール嬢は魔術の成績が低いからね! その身を護る使い魔の能力を確かめてやろうというわけさ!」
「余計なお世……メルエールです」
通りすがりの男子学生の言うように、上位から下位への挑戦は好ましくないものと考えられている。
なぜなら、戦闘向けの使い魔とそうでないものがいるからだ。
使い魔戦闘遊戯の格付けで上位にいることは名誉なことではあるが、興味ないものもいるし向いていないものもいる。
上位から下位へ戦いを挑むことは蹂躙にしかならないことが多いため、基本的に避けるべきとされているのである。
指先ほどの蛙と大型獣の戦いなど、蛙の方に勝ち目があるなら見ごたえがあるかもしれないが、そうでないなら見る価値もないし、大型獣が勝利しても名誉にはならないというわけだ。
それでもなお上位から下位へ対戦を申し込む場合は何らかの事情があるものだ。
使い魔戦闘遊戯とは関係ないところで因縁がある場合とか。
あるいは教育的指導を目的とする場合もある。
ワンワソオ子爵嫡子の場合は因縁の方である。
しかし体裁上、指導という名目を立てていた。
二人を知る者は、またやってるのかと、恒例のやり取りとして受け取っていた。
しかし、メルエールにとっては完全に余計なお世話であった。思わず口から漏れてしまうくらい。
いらんことしなくていいので引っ込んでろ、と角が立たないように婉曲に断る方法を考えていた。
相手の方が地位が上でなければ話は早いのだが。
残念ながら現実はそうではない。
正直使い魔戦闘遊戯なる競技にも興味はなかった。
そんなことより早く立場相応の能力を身につけなければ、貴族として生きていくのが難しい。
優先順位としては下下下の下であった。
それにある程度気を遣ってはいても、戦わせる以上、使い魔が死傷することもあるのだ。
使い魔の召喚儀式にはそれなりにお金がかかる。
メルエールの自由になる予算を考えても参加するのはためらわれた。
「その使い魔が役に立たなければ始末してやるから、別の使い魔を召喚するといい。心配せずとも召喚儀式の費用は用意して差し上げようとも! 僕が始末するのだから責任は取るよ! ははは!」
なんですと。
メルエールが思わず反応する。
今までかたくなにワンワソオと目を合わせなかったのだが、思わず顔に目をやってしまった。
召喚儀式代を出してくれるですって!?
ワンワソオにふふんと鼻で笑われた。イラッ。
メルエールはさっと目をそらし、今度は自分の後ろに引っ付いて隠れている使い魔もどきのうさみを見た。
うさみはワンワソオの使い魔の犬を見ていたが、メルエールが動いて自分を見たことに気が付いたか、見返してくる。
どうしたの? どうするの?
選択をメルエールにゆだねた顔である。
若干怯えが含まれていた。
まあ、ワンワソオが従えるあの犬はでかいから仕方があるまい。
鍛えた大人が武装していても魔術なしでは勝敗は危ういことだろう。
魔術ありでもなまなかではない。
この時メルエールの頭にはひとつの閃きがあった。
うさみが使い魔戦闘遊戯で死ねばわりと円満にもう一度使い魔を召喚できるのではないか。
そうすれば演技とかばれるとか心配しなくてもいい生活が送れるのでは。
ごくり。